学生の研究内容

生態科学研究室に所属する学生の研究内容を少し紹介。

カメムシと細菌の共生関係(博士3年, 今西)

あらゆる生物が細菌と共生しています。我々ヒトには乳酸菌などの腸内細菌が存在しており、それらは健康に重要な働きをしているということが知られています。しかし、昆虫の中には細菌との共生がもっと重要…細菌の存在が生死にまで係わるものがいるのです。

私の研究材料であるチャバネアオカメムシには腸内共生細菌がいます。実験的にこの細菌を除去してやるとほとんどのカメムシは成虫になる前に死んでしまいます。細菌の存在はカメムシの生存にとって必須なのです。

このような非常に重要なカメムシと細菌の関係がどのように進化し、維持されてきたのか、飼育実験や分子生物学実験を行って明らかにしようとしています。

カメムシは嫌われ者のイメージがありますが、ただ「臭いヤツ」じゃなくて「細菌と共生してる面白いヤツ」と思ってもらえると嬉しいです!

内容を詳しく知りたい人はこちらの本がおすすめです。

交尾中のチャバネアオカメムシ

クチキゴキブリの翅の食い合い(博士3年, 大崎)

オスとメスが互いを食べ合う…そんな生物をご存知だろうか?

なんと、ゴキブリである。

タイワンクチキゴキブリ(Salganea tiwanensis)はオスとメスが交尾の際にお互いに生えている翅を食べ合うのである。食べられ終えた後は、翅がほとんど残らず、一生飛べなくなってしまう。

実は、オスとメスがお互いに食べ合う生物はクチキゴキブリが世界で初めてである。そのため奇っ怪な行動である翅の食い合いだが、なぜこんなことをするのかは未だに分かっていない。
これを解明することがこの研究の目的だ。

毎年生息地である沖縄のやんばるへ採集に赴き、クチキゴキブリを採ってきて(朽ち木の中に家族で棲んでいる)、交尾させる実験を行っている。

本人HPはこちらを御覧ください。

翅を食べられる前(左)と
翅を食べられた後(右)のクチキゴキブリ

バッタの逃避行動(博士3年, 久我)

地球上に生息するほとんどの動物は、他の動物(捕食者)から食べられてしまう、食べられる動物(被食者)です。捕食者が近づいてきたとき、多くの被食者は食べられないよう、逃避をしてその場を立ち去ります。

僕は被食者の中でも昆虫のバッタに注目し、捕食者が近づいてきたときにバッタがどのように逃避しているかを調べています。野外でひたすらバッタを追いかけたり、実験室でバッタに音を聞かせたり、逃避の様子をハイスピードカメラで撮影したり、といろいろな方法でバッタの逃避を調べています。今は、ショウリョウバッタ(左の画像)が逃避中に発する、キチキチと目立つ音に関する研究を行っています。


*動物の行動研究のざっくりとした流れを知りたい方はこちらもどうぞ(久我が図書館TA時に作成した読書ガイドに飛びます)

草の上で休むショウリョウバッタのオス

ヤクシカのフンを拾い続けて(博士3年, 東)

研究室に配属されて、初めて屋久島に訪れました。屋久島はヤクスギが有名ですが、実は全部で1500種ほどの植物が自生し、世界中で屋久島にしかない植物が50種ほども存在しています。しかし、ヤクシカが増えすぎたことで、固有種を含む多くの植物がシカの摂食を受け激減してしまいました。

ヤクシカが植物を食べつくして餌がなくなったように見える場所でも、シカはいなくならずに個体数を維持しています。私は、ヤクシカが何を食べて個体数を維持しているか明らかにしたいと思い、島内のいろいろな場所でヤクシカが食べているものを調べています。

私は、シカの食べているものを調べる手段として、シカのフンを利用しています。実は、フンには食べた植物の破片が多く残っています。乾燥させたシカのフンをつぶすと、たまに食べた植物の香りがすることがあります。この破片からDNAを抽出し、その配列を解読することで、ヤクシカが食べた植物を詳しく知ることができます。

シカが食べた植物を調べるため、私は2018年には計4回、九州最高峰の宮之浦岳 (標高1936 m) を登ったり、普通の人が入らないようなシカ道 (シカが作った獣道) をたどったりしながら、シカフンをのべ284カ所で探し集めて、シカが食べているものを調べました。


ヤクザサを食べているヤクシカ

ツクツクボウシの鳴き声修士2年, 児玉

『ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!…ツクリヨーシ!ツクリヨーシ!…』

日本人でセミの鳴き声を聞いたことがない人はいないんじゃないか、というくらい、セミは日本人にとって馴染み深い昆虫のひとつです。セミの鳴き声は、日本の夏の風物詩ですね。

ところでツクツクボウシって、途中で鳴き声変わるじゃないですか。あれって、何故だかご存知ですか?

きっとご存知ないかと思います。私も知りません。実はその理由は、まだ明らかになっていないんです。

私はツクツクボウシを中心に、セミの鳴き声が持つ機能について調べています。捕まえたセミに鳴き声を聞かせたり、野外でスピーカーを使って鳴き声を再生してみたり、様々な方法でセミの鳴き声について調査し、上記の謎を解く手がかりを探しています。

実験のため捕獲したツクツクボウシ♂