病棟保育・医療保育は、全国の様々な病院で実践されているにも関わらず、実証的な研究知見の数は依然として少ないのが現状です。そこで本研究では、病院で、子どもを対象に働く病棟保育士に対する面接調査を通して、病棟保育士が実際にどのような思いを持って、どのように働かれているのか実態を把握するとともに、今後どのような役割を担う可能性があるのかを検討し、今後の研究の可能性についても考察することを目的としました。
※ 本研究は、発達保育実践政策学センターの関連SEEDプロジェクトとして実施いたしました。
1954 年に初めて保育士(当時は保母)が病院で働き始めて以来、こども病院の病棟や小児病棟で働く医療保育士、所謂病棟保育士の存在は全国に広まってきています。また、いわゆる「プレイルーム・保育士加算」と呼ばれる保険点数がつくようになってから既に10 年以上が経過しています。しかしながら、依然として、病棟保育に関するガイドラインや指針などが作成されることもなく、現在でも、病院や病棟の状況によって様々に異なる業務が行なわれているという報告もあります。このような背景の中、現在、どのような病院に、どのような保育士が、どのように勤務しているのか等、2つの調査を組み合わせることによって、病棟保育の実態の把握を多面的に捉えることを目指し、日本全国の小児科・小児外科を標榜する病院 2686 施設を対象とした調査を実施しました。本調査は「病棟保育の業務実態の把握」と「病棟保育の数の把握」を目的としていました。
2017年度発達保育実践政策学センター公開シンポジウム「人生のはじまりを豊かに~乳幼児の発達・保育研究のイノベーション~」 於;東京大学, 2017年8月
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入院中の子どもは、さまざまな不確かさを経験するといわれています。病気の概要や治療の経過、また、病気のことを他人からどう思われるかなどについて抱く「わからなさ」は、看護学や心理学の分野でイルネス・アンサーテンティ(Illness Uncertainty; 以下IU)という概念で研究されてきました。IUは子どもの「今ここ」の不安やストレスに影響を与えるだけでなく、「将来」の発達に影響する可能性も示唆されているのですが、病院のスタッフがどのように、子どものIUの発生や低減と関わる可能性があるのか検討されてきませんでした。
そこで本研究では、病棟保育士の関わりが入院中の子どものIUとどのように関連している可能性があるのかについて、熟達した保育士3名への面接調査を通して検討を行いました。
これまで、病棟保育士と他職種との協働に関しては、病棟保育士と他のコメディカルとの協働などが検討されてきた一方で、保育士と医師との協働については十分に検討されてきませんでした。
そこで行った昨年度の小児専門病院勤務の医師を対象とした予備調査では、病棟内の保育士に期待する声があると同時に、「実際何をやっているのかわからない」「他のコメディカルとの違いをわからない」など、協働する上での課題も散見されました。今後病棟保育がより一層普及し、専門性を向上させていく上で、医師と効果的に協働することは必要不可欠であると考えられます。
そこで本調査では保育士と医師との協働の様相を把握すべく、保育士の人数、雇用形態などが異なる4つの小児専門病院を対象に調査を実施し、保育士・医師間の交流の度合いなどをお尋ねした上で、互いの職種に対する認識や協働のしやすさ、しにくさ、その要因などについて探索的に検討することを目指しました。
「環境を通した保育」の重要性が指摘されるものの、病棟保育士が病院という特殊な環境の中で、どのように環境を構成しているのか十分に明らかにされていない。そこで本調査では、病棟保育士が病棟の中でどのように環境を構成し、どのような課題を感じているのかについて、オンライン調査フォーマット内で写真を投稿してもらうことを通じて検討することを目的としました。