1970年代に成立した比較的新たな文化であるコンピュータゲーム(ビデオゲーム)は、毀誉褒貶ありながらも多様化と発展を経て、現在では日本のみならず世界的に広く受け入れられるようになった。多くのビデオゲームは競技としての側面を持っており、その対戦が「eスポーツ」と称されることも、多額の入賞賞金を伴う国際大会が開催されることも珍しくない。そして他のスポーツと同様に、ビデオゲームの対戦にもある種の規範が存在し、そこにはルールや仕様によって明示的に禁止されるものから、プレイヤーやファンの間で暗黙裡に共有された倫理まで含まれる。例えば、ソフトウェアやハードウェアの改造等による「チート行為」や、プログラムの裏をかく「バグ技」や「ハメ技」は、多くのビデオゲーム対戦で倫理的不正として非難される。しかしこれまでのゲーム研究において、こうしたゲームプレイの倫理的不正の根拠や、様々なゲームジャンルにおける一貫した倫理規範の有無といった理論的考察がなされることは稀であった。
その一方で、応用倫理学分野としてのスポーツ倫理学には、野球やサッカー等の球技における「スポーツマンシップ」の内実の考察からスポーツをめぐる制度的・文化的影響の解明まで、国内外で様々な問題が主題化され、議論が蓄積されている。ビデオゲーム対戦の規範を考察するにあたり、「eスポーツ」としての側面からスポーツ倫理学の知見を用いることができるかもしれない。しかし、例えば「野球というゲーム」と「野球をテーマにしたビデオゲーム」の関係を考えるだけでも、その実践やプレイヤーの意識に多くの差異が存在し、検討を要することは明らかである。
したがって本研究は、競技化された対戦型ビデオゲームを「eスポーツ」として捉えたうえで、この領域を倫理学の新たな主題として考察する際の可能性とその限界を明らかにするための基盤を構築するため、研究者間のネットワークを構築することを目指す。ビデオゲームのプレイ人口は今後も国際的に増加する見込みが非常に高く、現時点でもゲームのプレイングにまつわるSNSでの論争は後を絶たない。またスポーツ倫理学もゲームスタディーズも比較的発展途上の分野である。両者の架橋となる本研究は、今後の様々な研究に派生する可能性を多分に秘めている。