私たち「障害のある人におけるセクシュアリティに関する研究会」
一同は、知的障害のある人の恋愛・結婚・出産・子育てに関する人権も擁護される真のインクルーシブ社会を目指して声明を発表します。


 2023年3月28日

声明文


声明:知的障害のある人における恋愛・結婚・出産・子育てに関する人権も擁護される

真のインクルーシブ社会を目指して

ーこれは単なる優生思想の話だけではないー

 

私たち「障害のある人におけるセクシュアリティに関する研究会」は、北海道の社会福祉法人あすなろ福祉会(以下,あすなろ福祉会)で発生したグループホームでの不妊処置の件を契機に、希望する人は誰もが恋愛・結婚・子育てができる社会変革を志向し、声明を出します。

 

 私たちは今回の件を、サービス利用者から見た時には権利侵害にあたるところがある一方で、サービスを提供する側として見た時には理解できる部分があるという2つの側面でとらえています。

あすなろ福祉会が、今回の件で障害者権利条約(以下,条約)第23条に謳われた「生殖能力を保持する権利」に抵触したことは事実であり遺憾に思います。また、もし報道にある通り、性知識の提供等も行われず、結婚の代償として不妊手術を選ばせていたとすれば、それは自由意思では無くダブルバインドといえ、条約第19条一般的意見に謳われる「その人自身の生活・人生について選択と管理をする」機会があったとは到底考えられません。パートナーとの同居に向けて、障害のある人から近い将来には妊娠・出産の希望がないことが申告されたとしても、その意思が変わりうる可能性を考慮し、不可逆的な処置以外での避妊方法の提案が必要だったと考えます。

一方で、施設の安全管理上、パートナー生活や結婚は容認できないとする施設・組織が多いことを鑑みるなら、あすなろ福祉会は、そうした本人の思いを視野に入れての支援であったかもしれないとも考えられます。

 

 いまも、障害のある人の希望・意思に向き合い、人間関係を形成する機会の創出、結婚、出産、子育ての支援をしている障害福祉分野の支援者もいます。しかし、障害福祉分野で行うそれらの支援には法的根拠もなく、十分な報酬もない中で、各々の支援者・支援組織の価値観と善意に依拠するほかない現状があります。子育て支援においても障害のある親を想定した支援は十分に準備されていません。障害のある人が家族を作ること、及び子育てにおける支援を国から提供されることは、条約第23条でも謳われた権利です。すなわち、障害のある人を含む誰もが子育てできる環境を作ることは社会の責務であるといえます。あすなろ福祉会の利用者たちに不妊手術を選ばせたのは、あすなろ福祉会よりもむしろ、これまで障害がある人にも恋愛、結婚、出産、子育ての意思があることに向き合わず、そのニーズを考慮した法制度等を作ってこなかった、私たちを含む社会なのではないでしょうか。

 

 誰しも人生において、人と出会い、別れ、恋愛し、同棲し、結婚、離婚、再婚、出産、子育てといったライフイベントも起こり得る可能性があります。しかし、多くの知的障害のある人たちは、それらを経験していません。その背景にあるのは、単に優生思想だけではなく、以下6つの課題があると私たちは考えます。




課題 1)恋愛を含めた豊かな人間関係を形成する機会、その維持に関する支援の欠如

課題 2)障害の有無によらず、結婚・出産・子育てを支援する制度の少なさ

課題 3)避妊方法の選択肢の少なさ

課題 4)包括的性教育の不十分さ

課題 5)支援者の「障害のある人のセクシュアリティ」に関して学習する機会のなさ

課題 6)国による調査研究の乏しさ


上記の現状により、国は以下の6点についてご検討ください。


課題1)に対する要望 1)恋愛を含めた豊かな人間関係を形成する機会、その維持に関する支援に対する法的根拠を

課題2)に対する要望 2)障害の有無によらず、結婚・出産・子育てができる制度を

課題3)に対する要望 3)避妊の選択肢(LARC註1など)を豊富に

課題4)に対する要望 4)ライフステージに応じた包括的性教育の推進を

課題5)に対する要望 5)支援者に障害者の恋愛・結婚・出産・子育てに関する学習機会を

課題6)に対する要望 6)障害者の恋愛・結婚・出産・子育てに関する実態調査研究

 





「障害のある人におけるセクシュアリティに関する研究会」一同

 延原稚枝・門下祐子・武子愛・名川勝・京俊輔・坂入悦子・宋知潤


註1: LARCとは、Long-Acting Reversible Contraception(長時間作用型の可逆的避妊法)であり、望まない妊娠を回避するための可逆的な避妊法で最も効果的かつ安全な方法である。具体的に日本ではIUD、IUSがあるが海外には、他にも避妊インプラント等選択肢が多い。


私たちの紹介と私たちの取り組み

私たちは、障害のある人たちの性的な権利について検討してきました。

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この声明文は、これまでの研究と私たちの研究の知見から書かれています。その詳細な背景です。

私たちの研究会は 2019年から開始され、それ以来共同研究を行なっています。

Statement in English is here