Overview

ダストに隠された宇宙の星形成史を紐解く

研究の背景

宇宙における星形成活動が、宇宙開闢から現在に至るまで、いかに変化してきたか、また、その変遷を司る物理過程は何か、を理解することは、星の中で生成される元素や物質の起源を知るためばかでなく、星生成過程を支配する重大な要因の一つである暗黒物質の性質を理解する上でも極めて重要である。ハッブル宇宙望遠鏡などによる可視光から近赤外線域(静止系で紫外線域に対応)での観測により、今や赤方偏移が10を超える初期宇宙での銀河が研究できる時代となった。一方で、Spitzerやあかり衛星などによる中間〜遠赤外線の観測や、SCUBA/SCUBA2やAzTECなど地上でのミリ波サブミリ波帯観測から、静止系紫外線域での測定で見えているのは、宇宙の星形成活動の一部であり、特に現在の宇宙から赤方偏移1〜3の時代に遡るにつれて、ダストに覆い隠され、静止系紫外線の観測では見逃されている星形成活動が急増していることも明らかになってきている。

では、赤方偏移が3より遠方の初期宇宙におけるダストに隠された星形成活動は、どれほど存在するのであろうか。静止系紫外線で観測される、典型的な星形成銀河(ライマンブレーク銀河)において、ダストに覆い隠される星形成活動がどれほど存在するか、ALMAを使った最新のミリ波サブミリ波帯の観測結果をまとめたところ、ダストに隠された星形成活動は限定的であり、ダストの影響を補正しても、星形成率密度は、赤方偏移が3から6にかけて、急激に減少していくことが分かった(図1右)。一方、Herschel衛星を使った静止系赤外線域で明るい銀河の観測では、赤方偏移が3から6に至るまで、ダストに隠された星形成率密度は一定であり、静止系紫外線では見えていない星形成活動が膨大に存在するという驚くべき結果が示唆されている(図1左)。

ここで、図1(右)の結果は、わずか1平方分角という極めて狭い範囲での観測に基づいていること、また、図1(左)の結果は、空間分解能が悪く、また、距離測定の多くは測光赤方偏移であり、大きな不定性があることに注意しなければならない。今後、より広い範囲で、かつ、分光学的赤方偏移も併せたミリ波サブミリ波観測を進めて行くことが急務となっている。

研究の目的

こうした背景を踏まえ、本研究では、ミリ波サブミリ波帯において、スペクトル線を示す「輝線銀河」の大規模探査により、これら未解明課題の解決を目指す。すなわち、

(1) 遠赤外線域で最も明るい炭素イオンからの[CII] 158μm輝線に着目し、赤方偏移が4から8の時代における星形成銀河を、ダスト減光の影響を受けない手法で、ALMAより格段に広い共動体積内を無バイアスに探査し、この時代における[CII]輝線光度関数、ひいては星形成率密度を測定する。

(2) 分子ガスのトレーサーである回転量子数の比較的小さいCO輝線に着目して無バイアス探査を行うことにより、赤方偏移が0から2に至る時代でのCO輝線光度関数とその進化に制限を与え、星形成の材料である分子ガスの質量密度の変遷をとらえる。

この目的を達成するため、超伝導量子検出器を用いた新しいコンセプトのミリ波サブミリ波帯分光システムを開発し、南米チリで稼働するサブミリ波望遠鏡ASTEやメキシコで稼働中のミリ波望遠鏡LMTに搭載して、観測を行う。

DESHIMA/ASTE


DESHIMA2.0のチップ

(左)チップ上に集積された超伝導分光器DESHIMA2.0の構造。(右)開発されたチップの実機。コインと比較して、その大きさがわかる。

MOSAIC/LMT


Expected sensitivity

Expected sensitivity curves of DESHIMA/MOSAIC on LMT 50m telescope.

研究推進体制

研究課題メンバー

  • 河野 孝太郎 (Kohno, Kotaro)
  • 川邊 良平 (Ryohei, Kawabe)
  • 大島 泰 (Oshima, Tai)
  • 竹腰 達哉 (Takekoshi, Tatsuya)
  • 石井 峻 (Ishii, Shun)
  • 田村 陽一 (Yoichi, Tamura)
  • 谷口暁星 (Taniguchi, Akio)
  • 成瀬雅人 (Naruse, Masato)
  • 上田佳宏 (Ueda, Yoshihiro)

海外研究協力メンバー

  • 遠藤 光 (Endo, Akira)
  • Jochem Baselmans (SRON)
  • 唐津 謙一 (Karatsu, Kenichi)
  • David H. Hughes (INAOE)