第05話 彼は追憶のドアに呼ばれる

(初回公開日:2020年11月12日)

以上のようにしてグリフィンは、意図不明の依頼を背負い込みました。

彼は、イナ・ポートランドの妹……アーモンドの調査をはじめました。


物語はいちばんはじめの場面にもどり、再びくりかえされます。

アーモンドは「本屋を併設したカフェ」に通うなか、ひとりの青年に出会いました。

彼女が「大学生」と信じて疑わなかった常連客……通称「がぶ飲みのひと」。


彼の名前は、グリフィン・トワイライト。

軍の指令で、アーモンドの身辺を調べる男です。

グリフィン・トワイライトは豪胆な男でしたが、慎重さを身につけた人物でもありました。彼は十数日のあいだ徹底して、カフェで「アーモンドの姿が目に入る位置にすわるだけ」という姿勢を保ちました。

ある日、弟のロイヤルがカフェにとびこんできて、むじゃきにグリフィンの名前を呼ぶ、という事件が起こりました。その一件も、グリフィンにとって、たいした問題ではありませんでした。


店員が振り向くほどの大声で呼ばれたのですから【グリフィン】という名前は、アーモンドの耳にも届いたことでしょう。アーモンドは、彼の名前を知った。だからと言って、あの娘になにができるというのでしょう。

「グリフィンが彼女を調査している」という秘密をしめす痕跡を、彼はどこにも残さなかった。彼はただ「カフェの常連客」として、彼女とおなじ部屋にいただけ。万が一、アーモンドがグリフィンに興味を持って、彼の自宅がどこにあるか突き止めるような冒険にくりだしたしたとしても……彼はびくともしなかったでしょう。


だってグリフィンには、やましいところはなにもない。

彼はまだ、なにもしていないのですから。

グリフィン(……アーモンド・ポートランドがこのカフェに、友だちを連れてきたことはない。彼女の二番目の姉・ネモフィラも、ここへは来ない。アーモンドのいちばんの友人は、書物のようだ。……すくなくとも、この店で観察した限りでは)


アーモンドのそうした特性は、グリフィンには理解できる気がしました。グリフィン自身も子ども時代、本は大切な友だちだったのです。


グリフィン(…………。はじめるか)

ある夕方、グリフィンは動きました。


店を出ていくアーモンドを追って、歩き出したのです。

足音をたてず、無関心を装い、充分な距離をとって追跡するグリフィンの胸に……ふたたび、濃色の霧が立ち込めてきました。


グリフィン(イナは……イナ・ポートランドは、ほんとうに死んだのか


何度めかの問いに、答えるものはいません。グリフィンの心は旅に出て、彼の瞳のうえに、遠い日の光景が膜のように蘇ってきました。

イナ「あんた、家出少年?

グリフィン「…………

イナ「うずくまったまま食べるの、やめてよ。あたし、犬にエサやってるみたいじゃない


…………。

…………。

グリフィンは高台の邸宅……ポートランド邸のまえまでやってきました。アーモンドは自分で鍵を開け、玄関のなかに姿を消していきます。


グリフィン(アーモンドは二番目の姉・ネモフィラとふたり暮らしだ。邸宅に使用人はいない。カフェを出たあとは、マーケットにでも行くのかと思ってた。きょうは彼女の行動範囲を調べるつもりだけのだったが……まっすぐ帰るのか)

グリフィン(ネモフィラはもう帰宅してるのか……。もし邸内に姉妹がそろってるなら、当然だが、忍び込むのは別の機会にするべきだ。だがアーモンドひとりなら……性急すぎる気はするが、いまこそ【そのとき】だ。外はまだ賑やかで、風も強くなってる。いまなら自然の物音が、おれの気配を消してくれる。影も濃い。撤収する際に紛れやすいだろう)


通風孔からなかを窺おうと決め、携帯電話の電源を切ろうとしたとき……その電話がふるえました。グリフィンは平静そのものの顔で大通りまで引き返し、通話アイコンをつつきました。

グリフィン「ムーア、任務中だ。連絡にはアプリを使えとも言った」


彼は同僚に、静かなる雷を落としました。

ムーア「怒るなよ、スノウフイール。いま、くだんの邸宅の前にいるんだろ?」


メルヴィル・ムーアは、見透かしたように言いました。



つづきます!

今回お借りした、主な作品


カフェの区画(BOOK CAFE)

HIKARE! 様


SS6枚目(お庭のアーモンド)のポーズ、マグカップ(SS3枚目)とiPhone(SS15枚目)の手持ちacc

新生まるきぶねスローライフ 様


大きな本(SS4枚目)の手持ちacc

Crystaroshsonia-TS4 様


他にも「自動販売機」や「ゲーム内のスマホの置換え」……そして勿論、髪型やお洋服など、多数の作品のお世話になっております!


Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!