第02話 そのカフェにおける集積(グリフィン)

(初回公開日:2020年11月3日)

その青年の名は、グリフィン・トワイライト。二十二歳。


ストレンジャービルの中心部に近いトレーラーパークに住む男です。

いっしょに暮らす家族は、弟がひとりと、

彼ら兄弟の身のまわりの世話をしてくれている「水の精霊」の女の子。

もちろん、彼らが旅のさなかに出会った「迷い犬出身」のトトも、大切な家族の一員です。

グリフィンの弟・ロイヤルの証言は、以下の通りです。

ロイヤル「グリフィンは郊外にある軍の宿舎で、清掃の仕事をしてるんだ。でもグリフィンって、うちでは部屋がかたづいていようが地獄のように散らかっていようが、全然気にしないからな。あんなんで本業がモップ掛けしたり、机をみがいたりすることだなんて、不思議な感じがする」

ロイヤル「それに、グリフィンって変なんだよ。仕事に出かけるときはいつも、気がついたら煙みたいに消えてるんだ。シャーロッタもおれも、グリフィンがいつのまに仕事に出てるのか知らない。トト?……うーん、トトの自慢の鼻があればなにか知っていそうな気もするけど、どうなのかなぁ」

ロイヤル「ほんと、グリフィンって謎の一面があるよ。どうして泥棒みたいにこっそり出勤する必要があるんだろ」

この物語のはじまりから遡ること一か月前、ストレンジャービルの高台に新しく「古書店を兼ね備えたカフェ」がオープンしました。


住む者のいなくなった歴史ある住居が改装され、カフェカウンターが気持ちよく整えられた。次に、たくさんの興味ぶかい書物とじょうぶな本棚が運び込まれた。最後に、手触りのいいテーブルが充分な空間的余裕をもってならべられ、店のいのちを吹きこまれて、客を迎え入れることになったのです。

実用一点張りの工具のような性格で、カフェで昼下がりのひとときをすごすという人間らしい楽しみとは縁のないグリフィンも、この心地よい店には足を運びます。たとえば夜勤明けの午前中、熱いコーヒーを飲みながら、魔術書や天文学の本を読むのです。

物語をはじめましょう。

季節は、初夏。

近ごろ、グリフィンがカフェでよく見かける人物がいます。


週末、陽のある時間帯に、幻想小説を読んでいる高校生。

幻想小説は草花図鑑に変わることもあるし、百科事典なみに分厚いミステリー小説だったこともある。だが、彼女のいちばんのお気に入りは、アリソン・リヴァーエンドの「キャラバンの少女」シリーズでした。


グリフィン(名前は、アーモンド・ポートランド。十八歳の高校生。生家は、このストレンジャービルの高台地区に百年前からある、歴史的な邸宅だ。この土日で、彼女はすくなくとも四冊読み終わってる


彼女について知っていることを、グリフィンは思い起こしました。

グリフィンはいま、わざわざカフェの外までやってきて、棒立ちでおにぎりを食べています。シャーロッタが工夫を凝らし「食べやすいように、米飯にレモン酢を利かせてくれた」おにぎりです。


彼がわざわざカフェの外に出てきてちいさな弁当を食べるのには「食が細く、食べ慣れたものしか受けつけない体質だから」という健康上の理由がありました。


カフェの看板メニュー「コモレビ山のモンブラン」や「ラムレーズンのホットケーキ」に興味がないわけではないし、メニューの裏面のすみにかくれている「香味野菜のオムレツ」は、ことに彼の目を惹いていた。彼の脳は「食べたい」と言っていた。


だが、それらを飲みくだして消化するには、彼の「胃袋の体力」が足りなかった。

とくに最近、気温が高くなってきてからは。

グリフィン(おにぎりと寿司の境目は、どこにあるのだろう)


レモン酢の利いたごはんを小鳥のようにつつきながら、グリフィンはぼんやり考えていました。


彼の判断によると、この「レモン酢を心持ち利かせた米飯」は寿司ではない。酢の割合がそう思わせるのか。彼好みの味つけで作られたおにぎりは飲みこみやすく、食べなければと気負わなくても、舌のうえで米粒がほろほろとほどけます。シャーロッタの弁当は、彼に「食欲」というものを百年ぶりに思い出させました。

この数週間、土日のたびに彼が観察したところによると、アーモンド・ポートランドにはおどおどした一面があり、店の人にもあたふたと頭を下げて礼を言います。本を開くとその顔色が明るくなり、緑の瞳がきらめく。その見た目に基づいてラベルを貼るならば「空想のなかに遊ぶ、おとなしい女の子」といったところでしょう。


グリフィン(だが従順に見える人間が、心のなかまでそうだとは限らない。空想家には烈しさを秘めた者もいる。森の屋敷にいるレイニーも従順に見えて頑固なタイプだったし、シャーロッタも【目を伏せたひなげし】のような女性でありながら、中身はまったくちがってる。アーモンドのきらめく瞳には、シャーロッタたちと似た気配を感じる)

二十二年分の人生経験から導きだされた、それが彼の結論でした。

カップを傾けてコーヒーの水面を揺らすと、彼のさらりとした銀色の髪がゆがみながら映りこみます。


コーヒーを注文して「どのカップになさいますか」と問われると、彼は決まって「潔い筒型の、白い厚手のマグカップ」を選びます。


この店をさいしょに訪れた日、とくに考えもなく選んだのがこのカップで、それがとても飲みやすかった。うえを向いて煽らなくても、カップのふちに口をつければコーヒーが自然に喉まですべっていくのです。職人技による形状だ、と彼は真剣にカップを見つめました。


グリフィン(…………。アーモンドが動いた。はじめるか)


グリフィンは、アレン・ヴァレンタイン作「真夜中の光明」を閉じて立ち上がり、それを書架にもどしました。

アーモンドがポシェットをななめにかけ、スカートのしわを伸ばし、帰宅の準備をしているのを横目で見ながら、次の本を探すふりをします。


彼女がカフェを出た四十秒後、グリフィンも店をあとにしました。



つづきます!

【今回お借りした、主な作品】


区画(Book Cafe)

HIKARE! 様


アーモンドが本を読んでいるポーズ、マグカップとおにぎりのacc

新生まるきぶねスローライフ 様


グリフィンが読んでいる、大きな本

Crystaroshsonia-TS4 様


Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!


(その他のポーズは、自作です……)