第21話 ねえさま、あなたは風に消えた

(初回公開日:2024年1月26日)

アーモンド「この部屋が腐りはじめるすこし前、一通の手紙が届いたのです」


お待ちください、と言い置いて、アーモンドは部屋を出ていきました。その手紙を取りに行ったのでしょう。

彼女がいない間に、グリフィンは部屋が発するざらついた匂いの正体を探ろうとしました。が、彼が手掛かりを掴むより早く、アーモンドは三十秒でもどってきました。

アーモンド「これが、その手紙です」


ひと目見た瞬間に、だれもが違和感を覚えそうな封書でした。


たとえば、あちこちにインクが飛び散った表書き。「ネモフィラ・ポートランド様、アーモンド様」と書かれた文字は【ちいさな子どもがペンを握りこんで、一所懸命書いたように】ひとつひとつが大きく、不ぞろいです。


それでいて筆圧は弱くふるえがちで、疲れきった老人の筆跡のような気配もあった。

切手は叩きつけたようにななめに貼られていて、端がめくれあがっています。


グリフィンは差出人の名前を、指でなぞりました。


「I N A」


イナ。

それ以上、差出人については書かれていません。住所もない。


アーモンド「……どうぞ開けて。なかもご覧ください」


グリフィンがいつまでも封筒をにらんでいるので、アーモンドがうながしました。

便箋には、おなじように大きく不ぞろいな文字で、次のように書かれていました。



時間がさかさまに流れている。


あたしはもう、あきらめなければならない。

人生のすべてを棄てて懸けた夢も、手に入れたはずの愛する者も。


ネモフィラとアーモンド、あたしのなつかしい妹たち。あんたたちにもう一度会いたかったと、いまでは思う。白い帽子はリボンをなびかせ、祭りの朝に飛び去った。あたしはここにいるけれど、二度と出会うことはないだろう。――イナ・P

グリフィン「これは彼女の……イナ・ポートランドの筆跡か?」


グリフィンはイナとすごした少年時代を思い出してみましたが、彼女が字を書くところを見た記憶はありませんでした。それはそれとして、目のまえにある手紙の文字は、若い娘が書いたものとは思えなかった。

アーモンド「よくわからないのです。姉は気性が烈しく、かんしゃく玉を破裂させて悪口を書きなぐることがありました。そんなときの字に、ほんのすこしだけ似ているような……けれど姉は本来、字が上手な人でした。ただ、この手紙はほんとうに姉が書いたと思います」


グリフィン「なぜだ」


アーモンド「この、最後のほう……【白い帽子はリボンをなびかせ、祭りの朝に飛び去った】とありますでしょう。こんなことを書けるのは姉だけです。……十年以上前、わたしたち姉妹が幼かった頃、姉に連れられて町のお祭りに行ったことがありました。イナの右手には、下の姉であるネモフィラがつかまっていて」


アーモンド「そして左手には、ちいさかったわたしがぶらさがるみたいにつかまっていました。移動観覧車のそばを歩いていたとき、つむじ風が起こって、イナがかぶっていた帽子がとばされました。イナは両手がふさがっていたから、帽子をつかまえることができなかった。長いリボンがついた、白い帽子でした」

アーモンド「姉は帽子を失くしたけれど【あんたたちふたりの手を離して見失うくらいなら、お気に入りの帽子が失くなったって構わないよ】と、自信に満ちて言いました。このちいさな事件を知っているのは、わたしたち姉妹三人だけです。わたしたちの母さえ知りません」


グリフィン「…………」

グリフィンはもう一度封筒をとり、裏返したり元にもどしたりしたあとで、郵便局のスタンプを確かめました。読みづらいが、日付は「先月の二日」になっています。


グリフィン(思ったより最近だな。…………?)


雨の日に配達されたのか、ポートランド邸の郵便受けに到着したあとで事故があったのか。ともかく「なんらかの理由でひどく滲んでいるスタンプ」の真ん中あたりにあるつぶれた文字を、グリフィンは二秒で読み解きました。



【ストレンジャービル中央局】



グリフィンの目が、射抜くような光を宿しました。この手紙は【ストレンジャービル郵便局の管轄内】で投函されたものだということになる。つまり、この屋敷のすぐ近くで。


グリフィン(なにが起きている)


少年時代の記憶のなかでイナが振り向き、肩をすくめてほほえみました。



つづきます!

SS7枚目の「空を飛ぶ帽子」(手持ちacc)は、

新生まるきぶねスローライフ 様

よりお借りしております。いつもありがとうございます。


他、たくさんの作品をお借りしております。


Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!


(ポーズは、自作です……)