第20話 零れおちてゆく青春

(初回公開日:2021年1月21日)

グリフィン「おれが何者なのか、話すことはできない。仕事のうえでの義務がある。だが言えるのは、おれはイナ・ポートランドにも、あなたにも、二番めの姉上ネモフィラにも、害をなすような真似はしないということだ。これは職務上の宣誓ではなく、それをうわまわるおれ自身の意志です」


このグリフィンという人は、信じるに値するのだろうか。

アーモンドがそれを考えている間、沈黙がありました。

アーモンド「…………。わかりました」


一分がすぎた頃、彼女は老貴婦人のように頷きました。その顔つきは決意した人のものでしたが、唇の色は蒼白でした。


アーモンド「こちらにおいでください。お見せしたいものがあります。……まだ身体がおつらいようでしたら、わたしが肩をお貸しします」

目にもやわらかな手が差しのべられ、グリフィンはちらりとほほえみました。

グリフィン「歩ける」

アーモンドは階段をのぼり、まっすぐにまえを向いて進んでいく。

たどり着いたのは再び、廃墟のようなあの部屋でした。

アーモンド「ここはわたしたち姉妹の長女、イナの部屋です。……いいえ、部屋でした。姉がこの屋敷で暮らしていた頃、このあたりに天蓋のついたラベンダー色のベッドがあり、こちらの壁には姉の好みで、バレエ公演のポスターが十二枚も貼られていました。窓には、房飾りのついたカーテンが掛けられていました」

アーモンド「グリフィンさんのおっしゃる通り、姉は十七歳の時に家出をしました。【自分の人生を勝ち取らなきゃいけない】と言って。姉がなにを求めていたのか、わたしにはわかりません。……ともかく、姉が家を離れたあとも、わたしたちはこの部屋を掃除し、花を飾り、いつ姉が帰ってきてもいいように整えていました。わたしが寄宿学校に移ってからは、町長さんがその役目をたいせつに引き継いでくださって」


アーモンド「でも、ある時期から部屋は荒れはじめました。天蓋のついたベッドは、あっというまに朽ちはてて、このような姿に」

アーモンド「……まるで、一夜にして百年のときが過ぎるのを見たような思いがしました。壁に貼られたバレエダンサーたちのポスターは、ボロボロになって剥がれ落ちました。いくらお掃除しても、ぴかぴかに磨こうとしても……部屋が腐り落ちていくのを止められないのです。……こんなことを申しあげても、信じられないかもしれませんが」


グリフィン「いや」

アーモンド・ポートランドは「部屋が朽ちていくのを見ると、彼女自身の全身に痛みが走る」という表情でした。


アーモンドの話は、確かにとっぴです。


けれど【つくり話もしっぽを巻いて逃げ出すような、とっぴな現実が存在する】ことを、グリフィンは経験で知っていました。それに、この部屋の引き裂かれたようなざらついた質感は、グリフィンに不快な刺激をあたえます。

グリフィン(……ゆうがた忍びこんだときよりも、この部屋の……怪物……のような匂いが濃くなっている。魔力なのか。それとも)


五感を研ぎ澄まして違和感の正体を探りながら、グリフィンは別のことを尋ねます。

グリフィン「思いあたることはないのか。部屋がこうなったきっかけや……こうなったのと同時期に、なにか別のできごとが起こったとか」


アーモンド「じつはひとつ、あるのです」

アーモンドは【それこそが話したかったことだ】という口調でした。


アーモンド「この部屋が腐りはじめるすこし前、一通の手紙が届いたのです」



つづきます!

Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!


(ポーズは、自作です……)