第18話 途(みち)を照らすもの

(初回公開日:2021年1月11日)

ストレンジャービルの夜は更け、冷えこみは増していました。


ポートランド邸のそばに倒れたグリフィンは、浅い息をしています。

彼の目から、追憶の膜が離れていきます。

グリフィン(イナ・ポートランドの姿を見たのは、その雪の朝が最後だった

グリフィン(その日の太陽が沈むまで、おれは彼女を捜して街じゅうを駆けまわったが、見つけることはできなかった。十四日後、彼女が初舞台だと言っていた日。おれはかき集めた金でメトロに乗り、ウィロークリークに向かった。ロイヤルやポーラスターたちを、都会に残して)

グリフィン(イナから劇場の名前を聞いていなかったのは、致命的だった。おれは公衆電話の電話帳を使って劇場のリストを作り、楽屋口のドアを片っ端からたたいた。二日ぶんの金がつきて弟妹の許にもどるまでの、それがおれの限界だった。……結局、おれはイナを連れもどすために、なにかを為したとはいえなかった

グリフィン(……ほんとうに、今夜は冷える)


身体が動かず、まぶたを閉じることができないグリフィンの目は、乾ききって痛かった。それでも、闇のなかを幻のような影が近づいてくることを、彼の瞳は感じとりました。

グリフィン「…………」


アーモンド「これがもし、物語の世界だったなら


消え入りそうな声で、アーモンド・ポートランドが言いました。それこそ幻が話しかけてくるようだと、グリフィンは思いました。

アーモンド「もしわたしが、物語のなかの女の子だったなら……もっと早くあなたの許に駆けつけて、介抱したと思います」


アーモンド「でもわたし、怖かった。あなたを窓から見つけたのち、五分間も迷いました。窓からではあなただとわからず、泥棒がいるのではと恐れていた。いつもカフェでお会いしてますよね、グリフィンさん


グリフィン「…………」


アーモンド「わたしのことが見えますか。お話しできなかったら、右手を上げてください」

グリフィン「…………。見えてる。すまないが、いま何時か教えてくれ」


とつぜん、グリフィンの唇が自由を取りもどして、そのことを尋ねました。

恢復のときが訪れたのです。


アーモンド「九時半です。起きられますか」

…………。

…………。

アーモンド「……手がつめたい。顔色もよくありませんね。ご気分は」


グリフィン「なんともない。冷えただけだ。気にかけてくれてありがとう。……礼をしたいが、日をあらためたいとも思う。きょうは行ってもいいだろうか」


アーモンド「ご無理は、なさらないほうがいいと思います」

控えめな口調でありながらも、アーモンドははっきりと言いました。


アーモンド「どうぞ、わたくしどもの館にお入りください。身体を温めて、ハーブティーを飲んでください。休んだほうがいいと思います」


グリフィン「いや……」


アーモンド「もうすぐ、姉が帰ってまいります。きょうは情報センターのほうまで出かけていたのですけれど、さきほど【帰る】と連絡がありました。姉は尼寺で育ち、看護の心得がある者です。わたしの言う通りに」

グリフィンの目元に深い影がわだかまり、それが次第にうすれました。


アーモンドが「姉」と言ったとき、グリフィンはイナ・ポートランドの話だと見誤りそうになった。その思いちがいは、彼の心臓を不吉に波打たせました。けれどアーモンドが言っているのは、次女ネモフィラのことでした。


グリフィン「わかった。世話になる」


あかりを掲げるアーモンドにつづいて、グリフィンはポートランド邸にもどっていきました。


彼の胸にはひとつ、考えがあったのです。



つづきます!

アーモンドが持っているキャンドルは、

新生まるきぶねスローライフ 様

よりお借りしております。いつもありがとうございます。


Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!


(ポーズは、自作です……)