第17話 幼年時代は閉じゆく

(初回公開日:2021年1月6日)

イナ「あたし、ワットさんのものになるって血判を捺したのに、こんなところで男の子と一緒にいるのがバレたら、耳を切り落とされちゃうからね。はは!」


グリフィン「…………」


イナ「どうしたの、グリフィン。コワい顔して。……じゃ、あたしはもう行くね?十一時からお稽古なんだ。またね!」

グリフィン「…………!

イナ「…………?」

イナ「……変なの。さっき、あたしがあんたに触ったら、あんたはあんなに怒ったのに」

グリフィン「危険な生きかただ」

イナ「危険がなによ。あたしは冒険の旅に出て、なりたい自分になるんだ。きっかけはどうであれ、ここから本物のダンサーになるんだよ!」


グリフィン「あなたはおれを助け、おれの弟妹(きょうだい)を助けてくれた。そんなあなたが自分を売って、破滅していくのは……だめだ」

イナ「破滅なんかしない。これは成功への第一歩だよ。……グリフィン、あんたはわかってくれると思ったのに。故郷を棄てて旅に出たあんたなら。それほどまでに揺るがぬ心を持ってるあんたなら!あたしにはただ、すべてを棄ててでも手に入れたい夢があるだけなんだよ!

グリフィン「傷つくだけではすまない!あなたの選択は……あなたを永劫苦しめることになる!」


イナ「うるさい!あたしは別の人間になる。日がな一日街をウロウロしているだけの、ただの娘じゃ終われないんだよ!」


グリフィン「ただの娘じゃない。あなたはおれを拾った!おれが死ななくて済むようにしてくれた!

奇想天外な不意打ちでもくらったかのように、イナの目がまるくなりました。

彼女はけたたましく笑いだしました。


グリフィン「…………。なにがおかしい」


イナ「ふ、はははは!……ごめんねグリフィン、怒鳴ったりして。あんたが心配してくれてるのはわかってる。でも、問題ないんだよ?初めて話すと思うけど、あたしはもともと、窮屈でご立派な実家からとびだしてきたの。いまのあたしは、なにも持ってない。失うものなんて、なにもない。……あたしはここからひとつずつ、人生のお城を築くんだよ」


グリフィン「ちがう、そうじゃない……!」

グリフィン(こんなときに……!


前触れなく、身体の自由が利かなくなる。

グリフィン特有の魔法疾患です。


生まれつき彼に備わっている【呪われた魔力】が彼自身を傷めていることによって起こる、けっして癒えない病でした。

イナ「グリフィン、あんたの友情には感謝してる」


グリフィンは表情を変えずに異変に耐えていたので、イナは彼を襲った現象に気がついていません。彼女は自分の袖にもう片方の手を入れて、ブレスレットをはずしました。

イナ「このブレスレットを渡しておくね」

イナ「気に入ってたんだけど、あんたという友だちができた記念に、あたしのお気に入りをあんたにあげるの。あ、でも、あんたの手首には小さいかな?サイズが合わなかったら、妹さんにあげてちょうだい。妹さんは、あたしとあんたが仲よくなるキッカケだった」


動かない少年の手を取って、少女は形見を握らせました。

イナ「さよなら、グリフィン。よい人生を。いつかどこかの劇場で、あたしのポスターを見かける日を楽しみにしててね!」

グリフィン(だめだ……そちらに行っては……)


凝りかたまった彼の喉が、少女の名を呼ぶことはありませんでした。

雪景色がはじまったサンマイシューノで、グリフィンは永遠に立ちつくしていました。



つづきます!

Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!


(ポーズは、自作です……)

※2021年当時の挿絵画像を発掘できなかったため、残っていた元SSを使って加工をやり直しました(2023年10月)