第15話 聖者よ、彼を援けたまえ

(初回公開日:2020年12月22日)

グリフィンの姿は、スパイス・マーケットの一角にありました。


グリフィン「フリントロック先生の家は……ここだ。アパートの四階だったな」


…………。

…………。

グリフィン「…………?」

金髪の男「……ありがとう、先生。見て、傷はきれいに消えたわ。よかったら今夜、もういちど来てもいい?シャンパンと桃のケーキを持って。【とくべつな】お礼がしたいの」


フリントロック「そうしよう。八時に部屋で」


金髪の男「待っていてね。じゃあ、あとで」


グリフィン「…………」

金髪の男「あら、先生のところ?」

グリフィン「…………」

グリフィン「……失礼します」


フリントロック「来たか、時間通りだな。茶でも飲むか。ショウガの入った薬湯もある」


グリフィン「いらない。支払いの話をしにきました」


フリントロック「そうか。おまえは多少、雑談というものを覚えたほうがいい気がするが……まぁそれはただの、わたしの意見だ。すわりなさい」

グリフィン「…………」


フリントロック「そうだ、そこに掛けて」

フリントロック「そう。上を見て。顔をあげていなさい」


…………。

…………。

グリフィン「…………?」

グリフィン「――――!!

少年は、怒りにまかせて男をつきとばしました。


だが、栄養がたりず血のめぐりの悪い彼の腕力で、壁のような大男をどうにかできるというものではなかった。反動で少年自身が、椅子ごとうしろに吹きとびました。


フリントロック「危険だな、ケガをするぞ」

グリフィン「自分を売るつもりはない!!いくら恩人であっても!!


顔が青ざめ、肩がわななくほどの激昂を見せて、グリフィンは怒鳴り散らしました。


ひ弱な少年だと受けとられて、つけこまれたこと。

大男の吐息に、あまったるい香水の匂いを感じたこと。

それが、部屋のまえですれちがった【患者】の残り香であること。

むこうのテーブルに、女物の絹の手袋が残されていること。

こんな下衆な男に、妹の診察をまかせたこと。


それらの現実が混ざりあい、めまいを引きおこすほどの怒りを、グリフィンにもたらしました。


フリントロック「……悪かった。なぜわたしが破門になったのか。おまえのようなむじゃきな若者でさえ、わたしの血肉から堕落の悪臭を嗅ぎとるのだと、おまえはこの身のくだらなさを教えてくれるな。だが、おまえの揺るがぬ誇りは、おまえ自身を援(たす)けるだろう」


グリフィン「!?


フリントロック「許せ。おまえは、わたしが遊び人だと知ったのだろう。わたしは頽廃しきっていて、思わせぶりに見えるのだろう。そうだとわかっていれば、誇り高いおまえを恐れさせ、そんなに怒らせるような近づき方はしなかった。もっと注意が必要だった。わたしはただ、おまえの目を……」


グリフィン「僧侶じゃなかったのか」


グリフィンは遮るようにして、収まらない怒りをたたきつけました。

フリントロック「そうだ。かつて戒律そのものを信仰し、やがて戒律への疑念が生まれ、さいごに戒律を破り棄てた。わたしが山を追放されたのは、そのためだった。だがそれでいい。女神のほんとうの教えは、戒律とは別のところにあると知った」


グリフィン「どうでもいい。さっさと支払いの話を終わらせてくれ」


フリントロック「そうしよう。もう一度、窓辺にすわりたまえ。そこのランプもつけてくれないか。……どうも、蛍光灯の光ではよく見えない」

グリフィンは相手をにらみつけ、動こうとしませんでした。


フリントロック「すまなかった。このナイフを渡しておこう。次にわたしへの憤りを感じるようなことがあったら、これでわたしの喉を突いても構わない」


…………。

…………。

グリフィン「……いつまで、こうしてる」


グリフィンは窓辺にすわり、フリントロック医師はペンライトを手にして、グリフィンのまえに立っていました。医師はグリフィンの顔をのぞきこみ、ライトを上げたり下げたりして、グリフィンの目のあたりを照らしています。


フリントロック「しずかに。おまえの魔力を感じとり、おまえの眼球の芯を視(み)ている。真夏の空を閉じこめたような、青い瞳だ。おまえは骨の髄まで魔力に汚染されているが、やはりこの瞳だけは染まっていない。生まれたときから、この色か」


グリフィン「……憶えてないが、そうだと思う」


フリントロック「正確な答え方だな。……グリフィンよ、率直に問う。おまえははるか昔、北方の森に姿を消したという英雄ライオネル・トワイライトの一族のものではないのか」


グリフィン「…………!!

グリフィン「…………。…………。その質問に答えることはできない。おれは顔を持たない、影の存在だ」


フリントロック「質問を替えよう。おまえは【世界の生まれ変わり】について、なにか伝え聞いてはいないか」


グリフィン「…………?」

フリントロック「……いや、わかった。立ちなさい」


グリフィン「…………。報酬の話はどうした」

フリントロック「報酬はもう、受け取った。はるか昔、霧のように姿を消した一族がどう生きたのか……その真実を、わたしはきょう知ることになった。おまえ自身はなにも知らない、ということもわかった。充分だ」


フリントロック「グリフィンの名を持つ若者よ。弟妹(きょうだい)たちのところまで、気をつけて帰りなさい。いつかきっと、おまえはおまえの役目を知る。その日までは、したたかに生き延びるのだ」

その日、フリントロック医師の部屋でかわした会話のことを、グリフィンはだれにも言いませんでした。



つづきます……!

今回のポーズ


SSの3枚目(フリントロックと金髪の男)のポーズは、

新生まるきぶねスローライフ 様

よりお借りしました。いつもありがとうございます!


Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!


(その他のポーズは、自作です……)