第10話 地に臥した英雄
(初回公開日:2020年11月28日)
アーモンド「ネモフィラおねえさま?もう帰っていらっしゃったの?」
一難去って、また一難。
新たな問題が飛来しました。
アーモンド・ポートランドの愛らしい声と足音が、階段をのぼって近づいてきます。
グリフィン(…………!)
グリフィンはまだ机に手をついていて、動かない身体をつっかえ棒のように支えています。
グリフィン(もどれ!!)
意志と筋力を総動員して命じると、彼の血液は、逆噴射のように全身を駆けめぐりました。
【カチャリ】
ドアノブがまわり、グリフィンがひそんでいる部屋……イナ・ポートランドの私室が開け放たれます。
アーモンド「あれ。だれもいない……」
…………。
…………。
その頃。
グリフィン・トワイライトはポートランド邸の敷地を出て、重ったるい足取りで歩いていました。
種明かしをすれば、簡単なこと。
アーモンドが部屋に入ってくるというまさにそのとき、グリフィンの身体はアクセルを踏んだように発進して……
彼はとっさに、窓を開けてとびだしました。
コウモリのように外壁に取りついてわざわざ窓を閉め、そこから庭に向かって大ジャンプする、という離れ業をやってのけたのです。
無理が利いたのは、そのときだけでした。
身体をひねって着地すると、彼の身体はふたたび【オイルが切れた機械のように】もつれはじめました。足が絡まったら転ぶのはあたりまえで、草のなかに膝をつきます。
グリフィン(…………。とりあえず、アーモンド・ポートランドの遺伝子情報のサンプルは、手に入れた。アーモンド自身が追ってくることもない)
眼球を動かすのも億劫だと思いながら、状況を整理します。
グリフィン(おれの身体についていえば、回復を待つしかない。いままでと同様の症状なら、時間がたてば、ふたたび動けるようになるだろう。だが、ここはまだ、ポートランド邸の軒先だ。農場の木戸のまえで罠にかかったウサギになった気分がする)
グリフィン・トワイライトは幼い頃から【ある瞬間、急に身体の自由が利かなくなる】という、たちの悪い現象に悩まされてきました。
それはまったく前触れなく起こり、前触れなく終わります。
故郷の長老たちの話によると。
それはグリフィンの持つ【呪われた魔力】が、彼自身の肉体を傷めていることによって起こる、癒えることがない病だということでした。
おそろしいことに、身体の自由を失っている間のグリフィンは、まぶたをふるわせることさえできないというのに、意識はより目醒めて澄みわたります。見えているのに、聞こえているのに、皮膚の外側で起こるすべての出来事から断絶される。
こうした体験は幼い時分、グリフィンに強烈な恐怖をあたえました。
グリフィン(あせる必要はない)
二十二歳になると、よくも悪くも、神経は図太くなります。
身体が動かなくなったら、じたばたしてもしょうがない。恢復するまで、なにか考えて時間をつぶせば、それでいい。
それが彼の編み出した、現実的な対処法でした。
グリフィン(……思ったより冷える。だが問題ない。初夏のストレンジャービルで凍死者が出たという話は、聞いたことがない)
その日の夕陽はいつにも増して時間をかけ、じわじわと沈んでいくように、グリフィンには感じられました。
同時刻。
市街地のトレーラーパーク、グリフィンの家では。
ロイヤル「え。呼んだか」
グリフィンの弟・ロイヤルが、ぽかんとして振り返りました。
家のなかには、ワールドミュージックが流れているだけでした。
グリフィンはしごとに行っているし、彼ら兄弟の【お世話係】シャーロッタは、小犬のトトを連れてマーケットに出かけています。
近所に住んでいるエルウィン・プリーズがまたフルーツナイフで指を切って、絆創膏を求めて訪ねてきたのでしょうか。けれど、玄関にはだれもいませんでした。
ロイヤル「なんだろ、気管がぞわぞわする。まさか、グリフィンなのか」
勘のいい弟は、不安を小さくしようとして、庭に出ました。
気温は、思ったより低かった。シャーロッタが帰ってくるまでの十五分間、彼は垣根に手をのせて、夕陽をじっと見つめていました。
*
つづきます!
Thanks to all MOD/CC creators!
And I love Sims!
(ポーズは、自作です……)