第08話 影のようなきみを見ている

(初回公開日:2020年11月21日)

グリフィン・トワイライトは奇妙なちからに飲まれて、ポートランド邸のドアに引きずりこまれました。


ぶあつい板に体当たりしたはずなのに、ぐんにゃりとした感触がありました。なにかがグリフィンの手首をつかんでいる。ねばねばとした黒いものがグリフィンの全身にまとわりつき、首すじをよじのぼり、喉をつまらせました。


グリフィン「…………!!

三秒半後、彼は前触れもなく、あかるい空間にほうり出されました。呼吸ができる。酸素がかるい。だれもグリフィンの手首をつかんではいない。


さいしょに、落ち着いた色の壁とヘリンボーンの床が目に入りました。

背後には、さっきまで目のまえにあったはずの赤いドア。

見たところ、ポートランド邸の玄関ホールです。


ドアはなんの変哲もない顔で閉じられたまま、そこにあるだけでした。

鍵はかかっていました。


グリフィン(……おれの魔力が、おれを助けるためにおこなったことなのか。ほんとうにそうだと言えるのだろうか)

いつまでも、考えこんでいるわけにはいきません。


グリフィンは聴覚と嗅覚を研ぎ澄まし、アーモンド・ポートランドが邸内のどこにいるのか、感じとろうとしました。かすかな空気の動きに乗って、新鮮な野菜と、スパイスの匂いが流れてきます。トントントン、という包丁の音。


アーモンド・ポートランドは、料理をしているようでした。

機嫌がいいのか、鼻歌をうたう彼女の声が聴こえます。

アーモンド「踊る娘はさらわれた/踊る娘はさらわれた/オオカミに口づけされたのさ/ふたりは遠い霧のなか


グリフィン(古い歌だ)


少女の無防備な鼻歌を聴いてしまったことが、グリフィンに居心地の悪さをもたらしました。


グリフィン(台所を調べるのは、彼女がそこを離れてから。最後にしたほうがいいだろう)

グリフィンは行動を開始しました。


手はじめに、この邸宅にイナ・ポートランドが存在していないかを確かめる。


同時に【イナの遺伝子情報のサンプル】を探し、またはその代替品として【ネモフィラか、アーモンドの遺伝子情報のサンプル】を入手するのです。

邸宅には、物がほとんどありませんでした。

最低限の家具と、ほんのすこしの飾りものがあるだけです。


グリフィン(引越してきたばかりの頃というのは、この状態がふつうだ。姉妹が最近この町にもどってきたというのは、ほんとうらしい)


自身も各地を転々としてきたので、グリフィンにはそういうことがよくわかりました。

玄関ホールには髪一本、砂ひとつぶさえ落ちていませんでした。

アーモンドとネモフィラの掃除は、完璧です。


アーモンド・ポートランドが奥のキッチンから顔を出さないとも限らないので、一階の廊下を進むのはやめて、階段をのぼります。

グリフィン(…………。変わった家だ)


打って変わって、隙間なく絵画が並べられた二階を見て、グリフィンはそういう感想を持ちました。とりあえず目についた「手前のドア」に耳をあて、物音がしないのを確かめます。手袋をはめた手で、ドアノブをまわします。

そこは、寝室でした。


ネモフィラの部屋か、アーモンドの部屋か。

判別するのは、難しくありませんでした。すみのほうに、本が山積みになっています。


グリフィン(アーモンド・ポートランドか。「キャラバンの少女」の最新刊がある)

へちまの化粧水やリップクリーム、日焼け止めが置かれた女性らしいスペースに、グリフィンはまよわず近づきました。


グリフィン(……あった)


ヘアブラシを見つけて、そこに絡まっている髪を抜き取ります。三本ぶんの毛髪を窓からの日差しで透かし見たあと、サンプル用の小瓶に封じます。


グリフィン(茶色の髪。やはりアーモンドだ)


イナもふくめたポートランド三姉妹で、髪が茶色いのはアーモンドひとりです。


グリフィン(それにしても、我ながらひどいおこないだ。おれは自分の名を呪うべきだと思う)

グリフィンはアーモンドの寝室を抜け出し、となりの部屋に向かいました。

ドアを開けると、

そこは、廃墟めいた空き部屋でした。


グリフィン(……なんだ、これは)


おなじ邸宅のなかとは思えない朽ちた匂いに、グリフィンはさすがに戸惑いました。しゃがみこんで、床にほこりが積もっているか調べました。


グリフィン(見た目に反して、ここも掃除は行き届いてる。きょうも掃き清められたのだろう。歩きまわっても、おれの足跡がほこりのうえに残る心配はない)

とつぜん、グリフィンは視線を感じました。


グリフィンの背後……部屋のすみから、だれかが見ているような気がしました。


彼はもちろん、弾かれたように振り返りました。だれもいません。壊れかけたクロゼットがあるだけ。アーモンドが階段をのぼり、ここへ近づいてきたわけでもありません。


グリフィン(…………。使われてない部屋。広くはないし、かつて邸宅のあるじが使っていた私室というわけではないだろう。間取りを考えると、おそらく子どもの部屋だ)


結論にたどり着いて、彼は歯のあいだから息を吐きました。


グリフィン(……家を出るまえに、イナ・ポートランドがいた部屋か)


グリフィンの背後、クロゼットに寄りかかっているだれかが、ひっそりとほほえんだように感じました。



つづきます……!

Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!


(ポーズは、自作です……)