第06話 汝、その罠に陥るなかれ

(初回公開日:2020年11月15日)

グリフィン「ムーア、任務中だ。連絡にはアプリを使えとも言った


グリフィンは同僚に、静かなる雷を落としました。

ムーア「怒るなよ、スノウフイール。いま、くだんの邸宅の前にいるんだろ?」


メルヴィル・ムーアは、見透かしたように言いました。グリフィンは眉をしかめて、あたりに目を走らせました。


グリフィン「……おまえ、おれの姿が見える位置にいるのか」


ムーア「うんにゃ。おれは下の市街地にいる。情報センターの前だよ。おまえを表すドット(点)が邸宅のほうに向かっていくのを、液晶画面で見てた」


グリフィンは事情を理解して、歯のあいだから息を吐きました。オオカミのような振舞いでしたが、ため息をついただけでした。

グリフィン「……ムーア、おれに発信機を仕込んだのか」


敵意をかくす必要はないと感じたので、グリフィンはそのとおりにしました。ぞっとする低音でしたが、電話のむこうのムーアにとっては「のれんに腕押し」でした。


ムーア「まぁね。おまえさんが話の早い男でたすかるよ。……おまえが自分から連絡をよこさないのは目に見えてたから、こうして見守らせてもらっただけだ。あ、でも、ほかの電波に干渉すると面倒なことになるから、この通話が済んだらスイッチ切ったほうがいいぞ」


「悪びれない」という言葉を、ひたいのまんなかに大書したような男です。


ムーア「発信機の位置はジーンズの左のポケット、布がひだになってるところの内側だ。ボールペンの先かなにか、とがったもので黒いスイッチを押しこめ。気が向いたらまた、オンにしてくれていい」

グリフィン「……わかった」


なにが【わかった】のか自分でもわかりませんが、抗議するのも面倒なので、グリフィンはそう言いました。電話を切ったらすぐに、ポケットをひっくり返して検分しましょう。それにしても注意深いグリフィンが、いつ発信機を仕込まれたのでしょうか。


味方を監視するような愚か者は、本来なら上に報告するべきでしょう。

だが、ムーアはすくなくとも毎週二回、規律を破って問題行動を見せるタイプの男です。


「いちいち報告していたら、きりがない」というのが、グリフィンの判断でした。それにムーアはこう見えて、これまで一度も、致命的なあやまちを犯したことはありません。

ムーア「落ちこむなよ、スノウフイール。おまえは良い兵士だぜ。ただ、おれのほうがちっと長く、この稼業に染まりきってきただけだ」


なにを勘違いしているのか、勘違いしたふりなのか。


グリフィンが喋らないのは考えをめぐらせているからであって、落ち込んでいるわけではありません。けれど、それを説明するのは面倒でした。


グリフィン「……切るぞ」


いつもどおり無感動に言って、グリフィンは携帯電話を耳から離そうとしました。


ムーア「待った!おまえが邸宅への潜入を考えてるなら、実際【いまこのとき】が適しているのかもしれん。すくなくともいま、ネモフィラ・ポートランドはその邸宅を留守にしてる。……だって彼女は、おれと一緒にいるんだからな。おれたち、友だちになったんだ」

グリフィン「…………。…………。…………?

脳みそがついていかなくなり、グリフィンはこめかみに手をやりました。


グリフィン「……おまえは、ネモフィラを尾行してたはずだ」


グリフィンの声が低いのは、怒っているのではなく、グリフィン自身が思い違いをしていたかと疑ったからでした。なにか、同僚のスケジュールを誤解したのか。


ムーア「おうよ、おまえは正しい」


グリフィン「尾行の対象と、友だちになったのか」

ムーア「コソコソかくれて追いまわす必要なんざ、ないだろうよ。めんどくさい。本人と友だちになったほうが、あれこれ聞き出すのもラクだし」

グリフィンは口許をゆがめて、歯のあいだから息を吐きました。

笑ったのです。

グリフィン「……それもそうだ。マルボロの指示に【姿をかくせ】というのは無かった。おれは融通が利かないな」


ムーアはヒューッと口笛を吹いてから、おかしそうに笑いました。


ムーア「そうでもないと思うけどな。もしいま、アーモンド・ポートランドが外出中なら、邸宅は無人だ。行くなら、行っちまえ」

グリフィン「アーモンドはもう帰宅してる。自宅にもどる彼女を追って、邸宅まで来た。だが潜入するなら、いまだろう。好条件がそろってる」


ムーア「えぇ!?だったらやめとけ。機会をあらため、留守宅を襲撃すればいいだろうよ。なんでそんな無茶をするの」

グリフィン「空き巣のような真似は、したくない。もちろんなにも破壊せず、アーモンドを傷つけることもなく、すみやかに撤収する」


グリフィン・トワイライトは、よくとおる声で言いました。


彼は、わざと【邸内に人がいる時間】を選ぼうとしているのです。


住人が在宅している時間帯のほうが、屋敷内のどの部屋に動きがあるのかわかりやすい。もしイナ・ポートランドが邸内に潜伏しているのなら、アーモンドと接触するかもしれない。情報を得やすいのは、いまをおいてほかにない。


グリフィンの言う【好条件】とは、そういうことでした。

もちろん、潜入した先でアーモンドと鉢合わせでもしたら、目もあてられないことになりますが。


メルヴィル・ムーアが、苦笑しました。


ムーア「おまえ、えらく高いハードルに挑む男だな。もっと合理的で、ドライな男だと思ってた」


グリフィン「充分合理的だ。切るぞ」


ムーア「あいよ、幸運を」

グリフィンは電話を切り、ムーアの仕込んだ発信機を見つけだすために、ポケットに手を入れました。



つづきます!

今回のポーズ


SS8~9枚目(ムーアとネモフィラのお散歩)SS13枚目(グリフィンとムーア)のポーズ、ならびにグリフィンが持っているiPhoneのaccは、いずれも

新生まるきぶねスローライフ 様

よりお借りしています。いつもありがとうございます!


Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!