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認知領域における人々の耐性を高めるための取り組み
認知領域における人々の耐性を高めるための取り組み
最終更新:2025年11月3日
文責:藤井章博(法政大学理工学部教授)
脅威の深刻化: 悪意のある噂(偽情報)は昔から存在するが、「変化するメディア環境」(ソーシャルメディアなどの普及)により、その偽情報がかつてない速さで、かつてない数の人々に拡散するようになった。
社会への多岐にわたる脅威: 偽情報は、公衆安全の脅威、社会の分断、政府や民主的プロセスへの信頼低下など、社会全体に複数の深刻な脅威をもたらす。
FIMI:令和7年版の防衛白書では、「外国による情報操作と干渉(FIMI:Foreign Information Manipulation and Interference)」を「外国政府などによる自国の「価値観や手続き、政治プロセスに悪影響を及ぼす、あるいはその可能性のある一連の行動」を指す概念」定義している。
「物語」の英訳が、Narrative(ナラティブ)であるが、 ここでは特に安全保障上の脅威に関連するものを「ナラティブ」と呼ぶ。ナラティブを形成するものは、基本的には自然言語であるが、一連の視覚的なイメージと共に想起されるものある。例えば「富士山は日本国の象徴である」というナラティブは、映像情報と関連が強い。
ナラティブは個人的な視点のものから、国家規模の視点を持つものまで幅広く存在する。また、時間軸上で規定する場合短期的なものから長期的なものまで存在する。
右図にその関係を示す。
ここでは、ナラティブを積極的に防御すること、否定的な言説に対して対抗する言説を流布するなどの対抗措置をとることなどナラティブに対して言論空間上で行う操作的行為を指して「エンゲージメント」と呼ぶ。
兵器を用いるキネティックな紛争においては、「敵」と「味方」、「防御」と「攻撃」の概念は明確である。しかし対象がナラティブである場合、具体的にエンゲージメントを考える場合のベクトルが向く方向は必ずしも相互に逆方向を向いていない点に留意すべきである。ここで、安全保障を高める場合を「ポジティブ」、貶める方向に働く場合を「ネガティブ」と捉えると、ポジティブなエンゲージメントは、攻撃的な側面と防御的な側面と両方の顔を持つと言えよう。(具体例:富士山)
本研究では、ナラティブに対するエンゲージメントの耐性について特に検討する。ナラティブの性質として2つの軸でその性格付けを行うことを提案した。耐性を考える場合は、つまるところ国民一人一人の認知領域における堅牢さの涵養が基本的な手段となる。
TTX(机上訓練)は、自然災害や事故に対する防災やサイバー攻撃を想定した関係者の訓練などで利用されている。本研究では、TTXの設計を「シリアスゲーム[参考文献]」の文脈でとらえ、ソフトウエア工学で培われた方法論を応用する。すなわち「要求定義」を明示し、そこに至る方法を検討し、具体的なゲームの設計に落とし込む。認知領域における耐性を高めるゲームについての研究として、先駆的な[文献2]に依拠した
R: Recognise
E: Early warning
S: Situational insight
I: Impact analysis
S: Strat. com.
T: Tracking effectiveness
偽情報の特定と評価
早期警戒
状況洞察
影響分析
戦略的コミュニケーション
効果の追跡
情報の脅威を特定し、その性質と評価を行う。
優先事項と対象者(オーディエンス)を保護するために、リスクを監視する。
データを実用的な洞察に変換し、タイムリーな対応を可能にする。
脅威の影響を評価することで、優先順位をつけ、エスカレーションを行う。
効果的なコミュニケーション戦略を実施し、脅威に対抗する。
コミュニケーションとプロセスを評価し、継続的な改善につなげる。
藤井章博、あなたの脳の中の戦争「湊合」令和6年冬号、日本平和学研究所
シリアスゲーム
ケンブリッジ大学