概要(9月17日)

9月17日(土) 10:00~12:00 セッション4 座長:栗木 哲(統計数理研究所)

江口 真透(統計数理研究所)「コピュラ関数のダイバージェンスとその応用」

コピュラ関数全体の空間上で一般化ダイバージェンスが導入できる.コピュラ関数のパラメトリックモデルが仮定されたとき,データから与えられる経験コピュラ関数とパラメトリック・コピュラ関数とのダイバージェンスを最小化することによってパラメータ推定量が定義できる.特にアルファ,ベータ,ガンマ・ベキ型ダイバージェンスを定義して,その最小化推定量の統計的性質について考察したい.フランク・コピュラ,ガンベル・コピュラ,t-コピュラなどの典型的なモデルについてモデルが正しく特定された場合と誤特定された場合の両面において,最小ダイバージェンス推定量の挙動について漸近的・数値的な観点から特徴を明らかにしたい.(この発表は加藤昇吾氏・吉羽要直氏との共同研究の一部となる.)


清 智也(東京大学)「最小情報従属モデルとその応用」

多変量データの従属構造を表現する統計モデルとして,最小情報従属モデルを提案する.このモデルはコピュラ理論で用いられている最小情報コピュラモデルを,任意のドメインに拡張したものである.ただし通常のコピュラモデリングとは異なり,固定する周辺分布にも(局外)母数を持たせる.これによってドメインの性質によらない柔軟な従属モデリングが可能となる.欠点は密度関数に含まれる正規化関数が陽に求められない点であるが,これは条件付き推測法によってある程度回避することができる.本講演ではモデルの性質と推測法を概観したのち,地震データへのあてはめなど,いくつかの適用例を紹介する.本研究は統計数理研究所の矢野恵佑氏との共同研究である.


Dou Xiaoling(早稲田大学)「A Penalized EM algorithm for B-spline copula」

There are many cases where the parameter matrix or array of a B-spline copula is sparse, that is, the parameter matrix (or array) contains zero components. We propose a penalized EM algorithm for estimating B-spline copula with the smoothly clipped absolute deviation (SCAD) penalty, and evaluate the effectiveness of the method by simulation. We also examine methods of choosing the size of parameter matrix of the copula and the tuning parameters of the penalty function. Finally, asymptotic properties of the penalized likelihood estimator, including the rate of convergence and asymptotic normality, are established. (This study is a joint work with Satoshi Kuriki, Gwo Dong Lin, and Donald Richards.)


9月17日(土) 13:00~15:50 セッション5 座長:吉羽 要直(東京都立大学)

木村 光宏(法政大学)「信頼性工学におけるアイテム状態監視データの依存性解析に関する一考察」

信頼性工学の分野では,一般に複数のアイテムからなるシステムの信頼性を評価することが求められる.その際,各アイテムが互いに独立に故障することを仮定できる場合は多くなく,特に,システム内に何らかの依存故障(例えば共倒れ故障)の可能性を仮定する必要がある.このようなことを背景として,信頼性解析に接合関数(copula)を導入することは自然である.本発表では,システムを構成する各アイテムの寿命分布の推定そのものではなく,複数の寿命分布の相互依存性を実測データから抽出することに焦点を当てる.具体的には,NASA Ames Research Centerによる4つのベアリング(軸受け)の稼働状態に関するオープンデータを題材とし,また接合関数としてはFGMコピュラを主な道具立てとして用いてデータ解析の例を示し,いくつかの困難さなどについて触れながら述べる.(本研究は神奈川大学の太田修平氏との共同研究である.)


夷藤 翔(筑波大学)「コピュラの違いが最適資産配分に与える影響の研究 ~非対称tコピュラと正規コピュラ,tコピュラとの比較~」

本報告では,近年金融分野で注目される非対称tコピュラと正規コピュラ,tコピュラを用いて,コピュラの違いがテイルリスクを考慮した最適資産配分に与える影響について考察する.分析対象は債券,クレジット,株式,不動産(REIT)とし,(1) コピュラの違いがCVaR制約付き期待収益率最大化問題やCVaR最小化問題の最適投資比率に与える影響,(2) コピュラ毎のCVaR最小化ポートフォリオのパフォーマンスに関する特徴を考察する.分析結果から,正規コピュラやtコピュラはAIC規準で選択された非対称tコピュラに対して,分布の裾での分散投資効果を大きく評価,CVaRを小さく評価し,相対的にハイリスクな株式等の最適投資比率を高めることを示した.また 4資産での実証分析の結果,非対称tコピュラを用いた場合のソルティノ・レシオやカルマ―・レシオが正規コピュラやtコピュラに比べ改善することが示された.

田中 智大(京都大学)「2変量極値分布を用いた大規模アンサンブル河川流量極値の同時超過確率の将来変化分析」

近年,1つの豪雨事例で広範囲にわたって被害が発生する事例が発生している.田中・北野(2022)は,大量のアンサンブルをもつ気候再現・予測データd4PDFから降雨流出解析を通して得た数千年分の河川流量データを用いて,複数の2水系間に2変量極値分布を適用して計画規模洪水流量の従属性および同時超過確率を検討した.本発表では,同データの将来気候実験を用いて同様に従属性と同意超過確率を計算した.関東地方,九州地方および関東中部大都市圏の3組の2地点群に適用した結果,相関係数が高いところでは再現期間100200年程度の計画規模洪水を数百年程度の再現期間で同時に超える結果を得た.一方,現在気候と比較して従属性の明瞭な将来変化が見られなかった.個別の洪水規模は大きくなることから,個々の流域に対する治水対策の強化が広域の洪水災害リスクの軽減にも大きく寄与することが示唆された.


北野 利一(名古屋工業大学)「3変量の極値に対するNest Negative Logisticモデル」

多変量極値分布の中でも,Gumbel Hougaardコピュラ(GH)は,アルキメディアン族に属する唯一の極値コピュラであり,代表的な分布になっている.特に,2変量の場合,ケンドールの順位相関は母数で単純に表せたり,周辺分布を標準Gumbel分布にとれば,変数の差の確率分布がロジスティック分布となる(それゆえに,極値統計分野ではLogisticモデルと呼ばれる)など,分布関数の数学的な特性を調べるには都合の良い性質がある.しかしながら,極値コピュラは,成分最大値(CM)を変数とする確率分布であり,イベント毎の極値の組を対象とした多変量分布ではないところに,応用に適用する上での難点がある.Logisticモデルの母数を負の値に拡張したものは,Negative Logisticモデル(Galambos コピュラ)と知られ,当然,アルキメディアン族には属さないが,従属関数(Pickands)や横断分布に特徴がある.このNegative Logisticモデルに対して,nest構造を導入したモデル(従属性を表す母数の数が2となる2母数3変量単純極値分布)を紹介し,3港(御前崎,清水,下田)に来襲する高波の波高記録に対して,3母数3変量単純極値分布となるHusler-Reissモデルと比較してみた報告である.