研究内容
1. 構造モデリングと分子シミュレーションによる生体分子の機能解析
タンパク質や脂質、核酸といった生体分子は、細胞内で生命現象を担いますが、それがどのような立体構造をとり、どのように動くことで機能しているかを明らかにします。そのためにまず、タンパク質などの立体構造データベースや分子・細胞生物学実験データからの知見、最近ではAI・機械学習手法を駆使することで、タンパク質(やそれらがたくさん集まった複合体)のモデル構造を構築します(構造モデリング)。さらに、分子動力学(Molecular Dynamics: MD)シミュレーションと呼ばれる、物理法則にそって1個1個の原子を動かす計算手法により、モデル構造を最適化しつつ、細胞内環境でダイナミックに運動する様子を観測します。得られた知見は、例えば生体分子の機能を巧みに制御するような薬剤分子の設計につながります。図は、Cushing病に関わる脱ユビキチン化酵素USP8について、WWドメイン(青)がユビキチン結合サイトを塞ぐようにして触媒ドメイン(緑)の活性を自己阻害する構造基盤を示した結果です (東工大福嶋先生との共同研究: Kakihara et al., Comm. Biol. 2021 ) 。
2. 新規シミュレーション手法の研究開発
あるタンパク質の構造からMDシミュレーションを始めたとき、普通に計算すると(brute force MDといいます)実は同じ構造の周辺を動くのが大半で、タンパク質の機能に関わるような大きな構造の変化をシミュレートするには時間がかかります(そのような、まれに起こるが機能発現に重要である構造変化は「レアイベント」と呼ばれ、近年では様々な分野で研究対象となっています )。そのために、統計力学的な考えに基づき、スーパーコンピュータといった大規模な計算資源をうまく用いることで、タンパク質構造変化を効率的にシミュレートするような計算手法の開発を行います。図は、「重み付きアンサンブル法」という手法で薬剤が解離した状態から結合構造に至る経路を計算した例ですが、結合途上のいくつかの準安定構造で働くような阻害剤が見つかれば、薬剤結合ポケットを解析するだけでは難しかった受容体タンパク質への選択性向上が期待できます。
学生の皆さんへ: 研究室での生活
「生物」や「化学」の研究というと、皆さんは白衣を着ていろんな機器を操作しながら実験するイメージを持たれるかもしれません。本研究室は名前のとおり「計算」をメインに研究をしており、居室の机に座ってパソコンを操作したり論文や本を読んだりする時間が大半になります。
それで楽しいのか?という疑問にはなかなか答えづらいですが、見たい生命現象を計算機上で思考しながら構築・再現し、それを直接観察できるというのは魅力的だと言えなくはありません。。ご興味のない方も、分子・細胞生物実験データをサポートするような計算データを求められることが近年ではよくありますので、その際には共同で研究できるといいなあと思っています。
パソコンやプログラミングに詳しくなくていいの?と思われる方もいるかと思いますが、使いながら習得していきますので、特段の予備知識は必要ありません。計算はツールであり、何を研究対象にすればいいかという生物化学的な視点がむしろ重要だと考えています。
研究室の計算資源
C10棟2階の低温実験室にサーバ用ラックを置かせてもらっています。
構成:
- sage: Nvidia GeForce GTX 1080Ti のGPU x 10 枚
- oregano: Nvidia RTX A4000 のGPU x 10 枚 (2022.9)
- mint: Nvidia RTX A4000 のGPU x 10 枚 (2023.8)
- 増設ディスク: 10 TB x 15 (+1 予備用) 枚、RAID6設定で容量 ~ 120 TB