各活動フェーズの詳細
ここでは、研修の枠組みが用意できた後に、具体的にどのような活動フェーズを踏んでいく必要があるのかについて紹介します。
研修の流れ
研修の概要説明
研修参加者の募集・確定
全体会1
ファシリテーター研修
事前検討会
授業観察・授業実践
事後検討会
全体会2
ファシリテーター研修
次の学期・年度での活動に向けた計画
相互授業観察を日本語学校で実施する場合、まずは学校としてどのように相互授業観察を位置付けているのか、その目的や意義を、講師会などで広く周知していく必要があります。また、講師会に加えて、個別で活動の詳細を尋ねられる窓口を決めておくことも重要です。
活動について周知した後は、参加者の募集・選定を行います。実施形態は学校の事情によって様々ですが、基本的には参加自体を強制せず、先生それぞれの自律性・主体性を尊重した参加形態をとることが重要です。参加者の募集に際してはアンケートフォームを利用するなどして、希望者が手を挙げられる仕組みを整えておきます。
募集が締め切られた後は参加者を決めていきます。各グループ編成は3人+ファシリテーターの合計4名です。理想は参加希望者の先生全員を参加できるように調整できると良いですが、ファシリテーターをできる先生が限られている場合や、参加希望の先生の担当しているクラスが大きく異なる場合などは、グループを編成できそうな人数に絞っていく必要があります。
なお、先生それぞれの自律性・主体性を尊重した参加形態をとることが重要だと述べましたが、「あと1名の参加者がいてほしい」というケースや、希望者の先生のなかに「D先生と話してみたい」といったニーズがあった場合には、D先生に声をかけ、同意が得られたら参加者としてD先生が加わる、というケースもあり得ます。
参加者が確定したら、その期間に実施するグループ全体で集まり、顔合わせと活動手順の詳細の説明を兼ねた、「全体会1」を実施します。ここでは、活動推進の担当者が司会進行をつとめます。また、学校の教務主任からも活動の狙いを説明するなどするのも良いでしょう。
実際に活動を進めていくにあたって、参加者の先生は、「授業デザインシート・授業参観シート・リフレクションシートの記入・共有をどうするか」、「各グループでの連絡をどのような媒体で行うのか」、「映像を記録した場合にはどこで確認するか」、「どの活動にどれだけの支給があるのか」、「ファシリテーターはグループの活動時間や活動場所の予約・管理をどこに記録するのか」、「授業観察は何コマ分見あうのが良いのか」、など具体的な疑問を抱えておられます。そのため、配布するガイドブックでは、これらの疑問にも答えられるように情報をまとめておきます。
そして活動の説明が終わったら、グループに分かれて、これからの活動スケジュールを調整します。具体的には「事前検討会」、「A先生の授業実践・観察日」、「B先生の授業実践・観察日」、「C先生の授業実践・観察日」、「事後検討会」の日程を決めます。「事前検討会」と「事後検討会」の日程は、それぞれの授業実践・観察日が決まらないと設定できません。また、単にスケジュール上空いている、という理由で授業実践・観察日を決めるわけではなく、授業者がカリキュラムの内容を踏まえて、「この日に見てほしい」という日になるよう、授業実践・観察日を決めることが大切です。さらに、こうした調整の中で、授業の代講が生じる可能性もあります。いつ代講が必要になるか、学校側で把握し、代講の手続きを進められるようにしておきます。
事前検討会が開始する前、または全体会1が開始する前には、ファシリテーター研修を実施します。ファシリテーターの役割は、スケジュール管理や活動のリマインドに加えて、事前・事後検討会で白熱する話の論点を整理したり、自分の思いを表出するのをためらっている先生の言語化の支援をしたりする役割もあります。
そのため、この研修では、ファシリテーターを経験した先生から、ファシリテーターを初めて担当する先生に対して、自らの経験を共有します。また、過去の参加者の授業デザインシートを見て、どんなふうに議論を深められそうか、ロールプレイをします。
このように、実際のこれからの活動のイメージをつけることで、ファシリテーターの先生も自分の役割が明確になり、どんなふうに活動を支援していくべきか、活動が本格的に開始する前に考えることができます。
事前検討会では、おおよそ2時間半ほどを設け、1人の授業者あたり25〜30分ほど議論できる時間を設けておきます。それぞれ順に授業デザインシートの項目に沿って授業の詳細を説明して、この中で出てきた相談事項をみんなで話し合います。また、授業者の問題意識に即して、授業は具体的にどこに着目して観察するのか、つまりは「観察の視点」を設定します。
なお、事前検討会で、ファシリテーターはお茶菓子などを持ち寄り、話しやすい雰囲気を作るのも良いでしょう。
事前検討会が終わったら、それぞれの授業を観察しあいます。授業観察の際は、教室後方に観察する先生方は座ります。また、ファシリテーターも授業を観察します。
観察の際、観察者側は「授業参観シート」を記入しながら、事後検討会で授業者と検討したことや授業者につたえようと思っていることを記載します。
しかし、授業を見られることは授業者にとって緊張感のある状況でもあります。授業者を評価するような姿勢ではなく、共に授業で学んでいる感覚でいると良いでしょう。
3名の授業が終わったら、事後検討会をおこないます。事後検討会では、事前検討会で持ち寄った「授業デザインシート」での観点を中心に据えながら話を進めます。
また、授業のふりかえりはポジティブな側面からも行うことが大切です。改善点を列挙するような話の進め方ではなく、まずは観察者側がお互いの授業から学び取ったことを話し合いましょう。次に、授業者の所感・議論したい点を言及し、その点に即しながら対話を進めます。
この事後検討会の中で初めて、授業者の本当の悩みが出てきたり、教師間での授業観の違いが出てくることもあります。それぞれの参加者はお互いの意見を尊重しながらも、自分の意見もぶつけて行きます。また、この時もファシリテーターはお茶菓子などを持ち寄り、話しやすい雰囲気を作ります。また、事後検討会は話がいろんな方向に拡散しやすいため、論点を整理したり、参加者の言語化を支援したりしましょう。もちろん、ファシリテーターも日本語教師ですので、自身の学びや疑問を投げかけるのも1つです。
グループごとの事後検討会が終わったら、全てのグループが一同に会して、活動全体のふりかえりを行います。ここでは、全体会1と同様に活動推進の担当者が司会を担当します。
この全体会2では、参加者が作成した成果物をまとめたポートフォリオを配布しながら、この相互授業観察を通した学びの総括シートの記入を通して、参加者に学びの言語化を促します。ここでは、ファシリテーターもファシリテーターの立場で学んだことを総括シートに記載します。
グループごとに議論の内容や雰囲気は異なります。そのため、全体会2までに活動推進の担当者がそれぞれのグループの映像や各参加者の成果物に目を通し、総括をするのも良いでしょう。
また、相互授業観察は上記で見てきたように、活動の参加にあたって様々な成果物の作成や授業観察など、一定の時間と労力を必要とします。こうした先生方の存在により、組織の教育の質が向上するとともに、学び合うコミュニティも形成されて行きます。そのため、全体会2では、教務主任から参加者にメッセージを伝えたり、修了証書の発行といった形で貢献を讃えたりすることで、参加者がこの活動を「個人の自己研鑽」のみならず「組織的な取り組み」として実感することができます。
全体会2までが終わったら、各グループの活動を牽引したファシリテーターと、活動推進の担当者とで、ふりかえりの研修をおこないます。ここでは、ファシリテーターとしてどのように介入できたことがよかったか、どのようにより良い介入ができたか、どのような仕組みが今後のファシリテーター担当者のために必要か、などを検討します。
当該の学期あるいは年度の活動が全て終了したら、活動推進の担当者である教師や、教務主任を中心に、今後の活動計画を考えます。例えば、今期の参加者の中で、次期のファシリテーターを希望する教師はいるか否かや、現状の取り組みに過剰な負荷がないか、必要な設備・資料などは何か、などを検討します。相互授業観察という活動を、先生方の自律的・主体的な力のもと進めながらも、組織的なサポートを提供することで、活動の維持・発展ができます。
以上、具体的な活動フェーズを紹介しました。全て上記のフェーズ通りにしようとせず、1つの参照モデルとしながら、ご所属の日本語学校でどのような活動ができるか、検討してみてください。
なお、これらの活動フェーズの詳細や実際の事例については下記の学会発表・論文等で公開しています。ご興味がおありの場合は、あわせてご参照ください。
【参考文献】
・野瀬由季子・大山牧子・大谷晋也(2022)「授業観察を用いた教師研修の設計と評価―立場の異なる日本語教師間での協働の促進―」『日本語教育』183号, pp.50-66.
・野瀬由季子(2023)「専任日本語教師をファシリテーターとする相互研修型の授業観察の取り組みの成果―授業者・観察者の立場で参加した日本語教師を対象とした調査から―」『2023年度日本語教育学会秋季大会予稿集』pp.225-230, 山形テルサ, 2023年11月25日.