9月1日~・学園祭開催
台風一四号が宇津帆島に迫る中、式典実行委員会は学園祭開催の延期を検討していた。
だが、それはシャルロット・ソフィの「大丈夫、私たちの学園祭は台風なんかには負けないよ」という一言で一転開催に決定する。
【……どん!ドドドン!
尺玉の花火がドカドカと打ち上げられる。
そう、いまは学園祭で、ここは蓬莱学園。これで事件が起きないはずもない。】
そう、そして学園祭で起こったのだ。蓬莱学園を、いや世界を揺るがすような大事件が……。
9月16日・クラシック音楽研定期演奏会
パルジファル第二回全力稼働実験を前に、一時の休暇を過ごす火野静。演奏会の会場で出会った白桐双葉は、火野の優しげな雰囲気に、これこそが彼女の本当の姿ではないかという確信をいだく。
演奏会を終えた二人は、火野の行きつけの喫茶店「ごーたま」に入るが……
【「懐かしい。まだ残ってたか」
「やっぱり、これって火野部長ですね。すると、こちらの方は水原さん?」
火野は答えなかった。
「ピアノを弾くと水原さんを思い出すって言いましたね」】
白桐が尋ねる。
【「付き合いはじめた頃かな。私はピアノを弾いていた。部長は、難しい顔をして何かメモしていたわ。そして『その楽譜を具現化するには十本の指があればいい。だけど、いま僕が書いている楽譜には、十四本の指が必要だ。あと四本、どこから持ってこよう……』と言った。そのときの私は、部長が何を言っているのかわからなかった。そう、あの時、部長は『幻想四次方程式』を構築していたのよ。それからすぐだった、部長がいなくなったのは。もう十一年も前の話……ふふ、こういう話、もう何年もしてないわ。どうして、今日、あなたに話したいと思ったのかしら」
「お疲れですか?計画もこれからだし、その、色々ありましたし」
「そう、きっと嬉しかったんだ。あなたが、部長のことを忘れないだろうからって」
「忘れない?」
「あなたが、何を考え、どういう意図で部長を調べたのかは知らないけど、あなたの記憶の奥に部長が、伸太さんが残ることが嬉しかったからかな」
沈黙。これ以上、火野の口からは何も語られなかった……】
10月20日・ミス・ミスター蓬莱選考会
満員の観衆で沸くミス・ミスター蓬莱選考会場。ミス蓬莱に選ばれたリムセア・フォン・シュタインベルクが涙ぐみながらトロフィーを受け取り、クイーンの冠をかぶせられる。
だが、その壇上で、準ミスに選ばれたソフィは、全く別の言葉を聞いていた。
【「良き卦を読んだ者たちよ。知と伝承により結ばれた人たちよ。私達は、再び託さねばなりません。時間流を治めるために、その解を得ねばなりません」
「私は、今を司るもの。シャルロット・ソフィ、あなたが永遠の今を望むなら、私はあなたを巫女として選びましょう」】
威厳と知恵に満ちた声。
学園を、そして世界を破滅に追い込む時間流。それを治めるための巫女として「現在の女神」がソフィを選んだのだ。
【「巫女となれば、変わらぬものと人に囲まれて、とこしえの幸せの中で生きることができるでしょう。そして、とこしえの時は悪しき時間流も消し去るでしょう」
「私はそれを待つのです。さあ、シャルロット・ソフィ、選びなさい!」】
そしてソフィは現在の巫女となることを決意する。ソフィは準ミス蓬莱のトロフィーを受け取ると……
【……(上へ!)
トロフィーをもった手がささげられた。会場の人々が上を見上げた。
ざわめきが広がる。
トロフィーが、一本の槍へと変わっていった。
そして槍から雷光が走り、それが空に広がり、黄金色の渦になった。
渦は大きく大きく広がり、空全体に広がっていった。】
同日・パルジファル第二回全力稼働実験
八月の第一回実験で学園中を停電させたパルジファル。だが、実験は予定通り続けられていた。そして第二回実験の日……
【……実験は順調に静かに進んでいった。逆流現象の発生から二ヶ月、シュタイナーはパルジファルを完璧なものとしていた。そして、実験にありがちな単調な作業になり三十分も過ぎた頃。
「どうなってるんだ!パルジファルの使用電力が跳ね上がっていく!」
「パルジファルへのエネルギー流入が止められません!このままでいくと、最悪爆発の恐れが!」】
再び暴走をはじめたパルジファル。計画主任のフランク・シュタイナーは、パルジファルへの電源ケーブルの切断を試みるが。
【「そうか!パルジファルはこれで正常だ!火野め、これが狙いかっ!これが『知恵の泉』計画の……解法……」
不意にシュタイナーが、状況をさえ忘れたように叫んだ。その刹那、歪みの生じた空間からエネルギーの塊――それは手のようにも触手のようにも見えた――がシュタイナーの体を鷲掴みにする。
ヨシュアの伸ばした手をすり抜け、シュタイナーは紙のように軽々と持ち上げられ、この世界ではない何処かへとつながる空間の歪みへと吸い込まれていった。】
『知恵の泉』計画はフランク・シュタイナーの行方不明という大きな犠牲を払った。だが、火野はあくまでも実験を続行する。
10月31日・弁天寮
怪盗ドルイドからの第二の予告状を解いた生徒有志は、狙われている大東このはをガードして弁天寮に立て籠もる。だが、彼らの努力は叶わず……
【「さぁ、その石を、ダエグを私に頂戴。」
そういってドルイドは、にっこりと、無邪気とも言える満面笑みを浮かべる。
「で、でも、でも」】
このはに迫るドルイド。ドルイドはルーン石を自在に操り、このはから「ダエグ」のルーン石を奪い取る。そして浴びせかけられる説得の言葉に対し……
【「……だって私の願いを叶える為にはこの石の力が必要なんだもの。ルーンの小石を正しく使えるのは、私だけだわ、私だけの為の、私の力よ!」】
ドルイドは、自らの願いを叶えるため、着実にルーンの数を増やしていた。
同日・旧SS本部棟
学園現代政治史の館野かえで教諭と共に旧SS本部棟を訪れた野津枝美岬、御上昴、九谷平介、本田鈴華らは、そこで館野が風間神平SS本部長の愛人であったことを聞く。
館野の口から語られる、南豪君武SS副本部長による風間暗殺と、その後の長い苦難の歴史に、一同は思わず言葉を失った。
「帰ろう。今日はもういいでしょう?」鈴華は皆を促した。
……その時、月の光が明るさを増した。
昴は朽ちて変色した壁が、元の色を取り戻していくのを呆然と見た。
女の姿となって、おのおの動き出す。
それは…………
「SSだわ。SSがいっぱい……」誰かがつぶやいた。
……館野の目が中央で女性と踊る一人の男に吸い寄せられているのに天流は気づいた。
天流の目がその男を見て、次の瞬間、丸くなった。
「……あれは、まさか……。……まさか、風間神平?そんな馬鹿な!」】
主な出来事
9月
1日: 後期始業式。大型台風が宇津帆島を直撃。それでも学園祭は予定通り開催。
4日: 総合防災訓練が行われる。
16日: クラシック音楽研定期演奏会
30日: 銃火器研倉庫からG-3小銃が盗まれる。
10月
1日: 演劇部「乱舞する幽霊」オーディション
20日: パルジファル第二回全力稼働実験。暴走したパルジファルを止めようとした計画主任、フランク・シュタイナーが行方不明に。
ミス・ミスター蓬莱選考会。準ミスに選ばれたシャルロット・ソフィが、授賞式の最中に天空に槍を突き上げる。
これより学園は徐々に輪状時空に移行。
25日: 第11次旧図書館整頓隊撤退。旧図書館完全封鎖。
校内巡回班臨時班士採用試験。
31日: 怪盗ドルイド、大東このはを襲撃。ルーン石「ダエグ」を奪い取る。
旧SS本部棟凍結。館野かえでをはじめとする数名が過去の世界に飛ばされる。