発表スケジュール・要旨（招へい参加者による発表）

3月8日（土）　16:00~17:30　発表①，②，③

3月9日（日）　09:00~11:00　発表④，⑤，⑥，⑦

テーマ：　中東欧の日本語教育に関わる、実践報告、研究発表、機関紹介

発表時間： 25 分(発表 20 分、質疑応答 5 分)

使用言語：日本語

※時間は中央ヨーロッパ時間（CET/ UTC+1/ GMT+1）です。

※発表順は今後変更の可能性があります。

3月8日（土） 15:30~17:00　発表①，②，③

発表① 文化祭における非公式教育の展開

ルング・マリアナ（ルーマニア、イオン・クレアンガ高等学校）

　タイジュ祭りは、学生たちが日本語と文化を広めるために毎年開催するイベントです。イベントには、日本劇、伝統舞踊、現代舞踊、空手や忍術のデモンストレーション、折り紙や書道、寿司作りなどのワークショップが含まれます。この祭りは、非公式な教育活動を通じて、学生たちの感情的・社会的な成長を促進し、協力や創造力を育むことを目的としています。

発表② 卒業論文作成のサポートをする日本語授業の実践報告　ー協働学習に着目してー

内川かずみ（ハンガリー、エトヴェシュ・ロラーンド大学）

　本発表では、今回の研修のテーマであるピア・ラーニングあるいは協働学習という観点から、卒業論文作成支援を取り入れた日本語授業の実践報告を行う。発表者は2014年から卒業論文の作成支援を取り入れた日本語授業のあり方を模索している。　まず初めに、このような授業を行うようになった経緯を説明する。次に、先行研究をもとに、協働学習の定義、利点、協働学習を行う上で重要な点と失敗しがちな点、そして協働学習における教師の役割について、知見を整理する。最後に、2024-2025年度秋学期の日本語コースの実践報告を行う。本コースではまず、学生らと共に、コース全体の内容や評価基準を考えた。授業では、卒業論文作成のためのマインドマップ作りやスケジュール作りなどに主にペアで取り組んだほか、少人数グループ内での発表や、ジグソー法を利用した論文読解などを行った。学生らはコースの最後に各自の卒業論文についてポスターあるいは記事を作成して提出した。また、学生らはコースの期間中、毎週、卒業論文のために各自が行ったことを日本語で記録した。　卒業論文を日本語授業で扱うことは、本来は個人が別々に取り組んでいた課題を、個人での学びと集団での学びの往還に変換することにつながる。本発表ではこの点に特に着目して実践報告を行いたい。

発表③ 選択科目としての日本語コースの紹介

ディヴナ・トリチコヴィッチ（セルビア、ベオグラード大学）

　本発表では、選択科目として提供される日本語コースの経緯、目的、構成、そして教育的意義について紹介する。まず、このコースが対象とする学生層を明らかにし、異文化理解や実践的なコミュニケーション能力の育成を主な目標として掲げている点を説明する。また、その目標を達成する上で直面する課題についても触れる。　次に、コースの具体的な内容と教授法について詳しく述べる。このコースは初級（A0）から初級後半（A2）レベルまで対応しており、文法や語彙の学習に加えて、会話練習や日本の文化・社会に関するトピックを取り入れることで、実践的な日本語運用能力を伸ばすことを目指している。また、プロジェクト型学習やペアワークといった参加型のアクティビティを取り入れることで、学生同士の積極的な関与を促進する取り組みを実施してきた事例も紹介する。　最後に、このモデルが他の教育現場にも応用できるヒントとなるよう、このコースが学生のキャリア形成や国際交流の可能性を広げる役割について議論し、日本語教育がグローバル社会で果たす重要な役割を強調する。

3月9日（日） 09:00~11:00　発表④，⑤，⑥，⑦

発表④ 学生の視点から見たピアの役割

フラボフスキ・ドーラ、スーチュ・クリスティナ（ハンガリー、カーロリ・ガーシュパール・カルビン派大学）

本発表では、設立から30年にわたり存続しているカーロリ・ガーシュパール・カルビン派大学の日本語学科、特にそこで行われている初級レベルの日本語の授業について紹介し、実践報告を行う。本大学の日本語教育における主な課題に対応するため、カリキュラムおよび課外活動の中にピア・ラーニング（協働学習）の要素を積極的に取り入れている。特に、初級レベルの日本語授業におけるピア・ラーニングの役割に注目し、どのような活動が行われているかを説明する。そして、実際の授業を受けた学生95人を対象に実施したアンケート調査「学生の視点から見たピアの役割」の結果を紹介する。

発表⑤ ポーランドの大学における『まるごと』使用の事例報告

ジョンデクなぎさ（ポーランド、アダム・ミツキェヴィチ大学）

　発表者は2024年2月からポーランドの某大学で選択必修の日本語コース（週90分）を担当し、発表者にとってはじめての教科書『まるごと』を主教材に使用している。テストの結果を見る限り、一定の成果をあげていると考える。しかし、同コースに通う学習者対象のアンケート調査の結果から、授業での文法の扱いについて対象者の半数以上が否定的な意見を持つことがわかってきた。そこで、①ポーランドの大学で『まるごと』を使用する選択日本語コースの学習者を対象にアンケート調査を実施して、問題を解明しようとすると同時に、仮に二つの解決策を考えた。すなわち、②ポーランド語話者向け日本語入門教材を作成すること、および、③『まるごと』が推奨する教授法について学習者と話し合うことである。　①では、問題視された文法の扱いが教師の努力や補助教材の開発で解決するか、あるいは、学習者の批判は教授法自体についての批判または情報不足によるものなのか、アンケートの結果を見て検討する。②では、当面の問題解決のため、A1コースのまとめとして、日本語のポーランド語と大きく相違する点についてクイズ形式で学習者に考えさせる教材を作成し、使用結果を報告する。③については、発表時までに授業で実践できなかったため、教授法の問題を①のアンケートに含めて検討するに留め、今後の課題とする。

発表⑥ クロアチア国立ザグレブ大学哲学部アジア研究学科日本学専攻機関紹介

上林彰仁（クロアチア、ザグレブ大学）

　ザグレブ大学哲学部アジア研究学科日本学専攻は、2004年設立の同学内日本学コース（3年制選択コース）を前身としている。そして、2024年10月からは日本学専攻へと昇格し、5年制（学士課程3年＋修士課程2年の一貫制）正課教育課程を開始した。現在は、正課教育課程・日本学専攻の1年生と、前身の日本学コース2〜3年生に対する教育を実施している。現在の当機関在学者は正課生27名、選択制コース生約20名である。　これまでの日本学コース修了生は、自身の専門分野を生かして一般企業やアカデミアに進む者、国費や私費で日本留学する者、隣国大学の日本研究講座に進学して日本研究を行う者、日本で就職する者など様々である。また、クロアチア国内で日本人対象の観光ガイドをしたり、クロアチア人を対象として日本語教師の職に就いている者もいる。さらには、博士号を取得して当機関で教員として働く者など、クロアチアの日本学発展のために活躍する人材も育ってきている。今後当機関は、正課教育課程・日本学専攻の教育へ主軸を移していくことになる。そのため、将来的には、上記のような人材をさらに多数輩出できることが期待される。　当機関は、日本国外務省や国際交流基金の継続的支援を受けながら、正課教育課程へと昇格することができた。本発表では、昨年開始の正課教育課程クラスの様子も紹介しつつ、現在の当機関の課題と、今後の展望についても述べる。

発表⑦ スロベニア語話者の日本語学習者向け日本語・スロベニア語辞書「sloJa」の構築

ラウラ・バロヴィチ・ボジャク（スロベニア、リュブリャーナ大学）

　スロベニアでは日本語学習への関心が高いにもかかわらず、スロベニア人の日本語学習者が利用できる教材や参考書が不足している。2004年に日本語・スロベニア語辞典がオンライン公開されたが、スロベニア語話者向けのス日辞典はまだない。そのため、2023年に辞書反転を元にした「sloJa」というスロベニア語・日本語学習辞典を構築するプロジェクトが開始された。この辞書はリュブリャナ大学のフメリャク寒川講師の監修のもと、リュブリャナ大学とヨージェフ・ステファン研究所との協力で制作された。まず、リュブリャナ大学の理数・情報処理専攻の学生が自作のソフトウェアで日ス辞典から語義ごとの対訳語を抽出し、編集用のデータを準備した。次に、2023年九月から十一月にかけてフメリャク寒川講師と私を含む七人の学生が手作業でデータを確認・編集し、最後にシュテファン研究所のトマシュ・エリャベツ研究員の協力を得て、標準形式に変換し公開した。　本発表では、「sloJa」の編纂理念、構築過程とその結果を紹介し、技術的な情報以外に、辞書作りに取り組んだ個人的な経験、明らかになった問題点とその解決策、また辞書のさらなる発展の可能性についても紹介したい。

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