私たちは他人の行動を見て、それを真似したり参考にしたりします。これは幅広い動物に見られ、専門用語としては「社会的学習」と言います。逆に、自分で学習していくことは「試行錯誤学習」です。
ネコちゃんは自分で障子やドアを開けたりしますが、実際にヒトがお手本を見せた場合、それをヒントにして行動を変えるのかを調べてみました。ネコはなんでも自分でがんばりそうですが、どうなのでしょうか?
ちなみにイヌは飼い主さんのことを非常によく見ています。V字フェンスの向こう側にゴハンがある場面では、回り込んでそれを得るという行動を飼い主さんが見せると、(たいていの条件では)それを真似することがわかっています。
木の棒部分を爪とぎのようにひっかけて引くと、オヤツがでてくる仕組みの装置を作りました。そして、調査員がお手本を見せるグループと見せないグループにネコちゃんたちを分け、お手本を見せるグループのほうがオヤツをうまく引き出せるようになるかを調べました。
結果、2つのグループ間に差はありませんでした。
この課題は「抑制制御」と関連しています。透明なチューブのなかにゴハンが入っていて、横側の穴から手を入れてゴハンを手に入れる必要がありますが、多くのネコ(と、様々な動物たち)は正面の透明な壁からゴハンを手に入れようとしてしまいます。そこをグッと我慢して横にまわる(抑制制御)が必要です。そして今回は調査員が横から取るのをお手本として見せてあげて、お手本を見せないグループと差があるのかを調べました。
結果、グループ間に差はありませんでした。お手本を見せる調査者と同じ入り口からオヤツを取ろうとするのかも調べましたが、やはり差はありませんでした。
今回の課題ではネコが社会的学習をする証拠は得られませんでした。単純に解釈すると、これはネコが単独性の動物であり、他個体から学習する必要性が低かったからかもしれません。一方で、課題1,2とも単に難しかった可能性はあります。また、イヌに比べてオヤツに対するモチベーションが低く、実験を始める前に逃走するネコちゃんも多かったです。オヤツを使わない課題が必要だったのかもしれません。
引き出し課題は「ネコの行動バリエーションである爪とぎの動作を取り入れることで、ネコにとってやりやすいのではないか?」と思い装置を考案しました。ネコが簡単に出せる行動でないと、そもそも「社会的学習をするか?」を調べられないからです。
装置の製作や実際の実験は、当時の卒論生だった方に1年間がんばっていただけました。アクリルの板をキコキコ切って接着剤で貼り付ける、ホームメイドな装置です。
チューブ課題は他の動物でもよく実験されており、脳の大きさと関連があるのでは? という賛否両論の説もあります(MacLean et al., 2014)。脳の大きさのことは別にしますが、これらの課題ではヒトのお手本を見なくても試行錯誤でできるようになるネコちゃんがけっこういて、ネコの独立独歩な精神を感じました。
最後に、京都、愛知、関東などで調査にご協力いただいたネコちゃんおよび飼い主さまにお礼申し上げます。就職が重なり3年もかかってしまいましたが、論文にできてほっとしています。
本研究はオープンアクセスなので無料でご覧いただけます。
Arahori, M., Kimura, A., Takagi, S., Chijiiwa, H., Fujita, K., & Kuroshima, H. (2023). Cats Did Not Change Their Problem-Solving Behaviours after Human Demonstrations. Animals, 13(6), 984. https://doi.org/10.3390/ani13060984
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(このページは荒堀が執筆しました)