当店のコーヒーゼリーへのこだわり
ゼリーはゼラチンの分子が絡み合った構造を持っており高い保水力があります。このゼリーの中に閉じ込められたいろいろな分子は動きが制限されているためになかなか外にでることはできません。この性質を利用して、ゼラチンの中に薬を入れて、その薬をゼラチンの中からゆっくり放出して薬の効果を長くさせるなど医薬品への応用研究が行われています。(ちなみに、私はこのような研究を20年近く行っていました。)コーヒーに関しても、香り成分の分子はゼリーの中に閉じ込められることから、液体のコーヒーと違い、ゼリーの中に香りの分子がとどまり、香りが長く維持されます。しかし、中に閉じ込められた香りは外に出られないことから、香りを楽しむためには香りの分子をゼリーの外に放出させなければいけません。そのためにはゼリーを溶かして、液体の状態にする必要があります。ゼリーは温度が高くなると溶ける性質があるので、口の中に入った後すぐに溶かすことができれば、口の中でコーヒーの香りや味を効率的に届けることができます。
そこで当店のコーヒーゼリーは、市販されている物よりも柔らかく滑らかに作っています。ゼリーは、約25~28度で溶け始めますので、柔らかいゼリーを口の中に入れるとすぐにコーヒーの香りと味わいが口の中に広がります。また、コーヒーは全てハンドドリップで淹れ、その香りを損なわないようにするための様々な工夫をしています。コーヒーを飲むようにコーヒーゼリーでコーヒー本来の味を楽しむ。そんなコーヒーゼリーを皆様に楽しんでもらえるように一つ一つ丁寧につくっています。
コーヒーゼリーは甘い?
当店のコーヒーゼリーは市販のものより甘みが弱くなっています。甘みが強いとコーヒー本来の味がぼやけてしまうため、あえて甘さを弱くしています。ただし、苦味が全面に出てしまわないようにメープルシロップで味付けを行い、コーヒーの強めの苦みはマイルドに、軽やかで優しい味わいにするようにしています。これらの工夫により、コーヒー豆それぞれがもつ特徴の違いがゼリーになってもはっきりと分かるようになります。この味の違いはそれぞれ個人が持つコーヒーの好みに合うものであり、苦みが好きな方、酸味や香りを好む方、それぞれの嗜好に合ったコーヒーゼリーを楽しむことができます。また、当店のコーヒーゼリーをデザートとして楽しむために、全てのゼリーには特製の生クリームソースをつけております。ゼリーの甘さを抑えていることからクリームの方はあえて甘めに味付けを行っており、コーヒーゼリーとクリームが絡んだ時に、また異なった味のデザートとして楽しんでいただくことができるようになっています。
最後に
2022年11月号の高分子学会 月刊誌「高分子」の特集は“高分子を食べる-嚥下・食感と高分子物性”という内容でした。その中の編集者のコラムで、編集者が祖母になぜ長生きするのかと問うと“もっとおいしいものを食べたいから”という回答があったとありました。ゼリーは流動性の高い飲料よりも誤嚥性が少ない食品であるといわれており、この高齢化社会の中でも優しい食べ物の一つであります。おいしいコーヒーを飲みに行けない、飲めないという方でも、コーヒーゼリーというかたちで、その方の求めるコーヒーに近い味わいを出せれば、多くの方に満足していただけるのではないかと思います。当店のコーヒーゼリーが“もっとおいしいもの”のうちの一つとなれるように一つ一つに思いを込めて作成したいと思います。