京都府 長岡天神あるいは、五ミリの静寂.カタン、カタン、、カタンガタン
ゆこう。タンジェリンオレンジの横、扉の向こう、そこには「刻(とき)」が溜まっている。長岡天満宮の傍ら、昭和四十四年の創業から、この居場所からの景色は変わらない。
窓に嵌め殺された、五ミリ厚の板ガラス。現代の六ミリでは決して生み出せぬ、わずかな「ゆらぎ」を伴った光の屈折。それが、店内の飴色の椅子や、丹念に磨き上げられた床の上に、独特の静寂を落としている。
ここは、時代を追いかけるためでも、飾り立てるための場所ではない。 誰もが知っていたはずの『心地よい退屈』が、 静かに居座り続けている場所である。
入り口に置かれた、赤い機巧(からくり)。新品のタイヤを履き、沈黙を守るその姿は、この空間が今もなお「現役」として、脈打ち存続の可能性をよぎらせる。
供されるダブルプリンの、透明なガラス器に反射する光。終日変わらぬ品書き。それらはすべて、この地で半世紀を積み重ねてしまった文化もふくんだ「質量」である。
ただ空腹を満たすためではなく、 五ミリガラスの内側にだけ満ちている、 琥珀色の『平熱』に触れるために、人はここを訪れる。
十六時。
西日が差し込み、ガラスのゆらぎが最も美しくなる頃、さぶけて(寒々しく)消えることを拒み、そこに在り続ける、純喫茶。
©Cafe De FLEUR Nagaokakyo