研究内容

OUR RESEARCH

植物の生体防御タンパク質の網羅的解析および植物病原菌タンパク質との相互作用研究

 植物病原菌は感染成立を試みる際、植物細胞壁分解酵素(ヘミセルラーゼやペクチナーゼ)を含む病原性タンパク質群を分泌し、攻撃します。一方植物は病原菌の細胞壁成分であるキチンやグルカンといった多糖を分解する酵素(キチナーゼやグルカナーゼ)を分泌し、分解・溶菌をもたらすことによって抵抗性を示します(攻めの抵抗性)。さらに相手側から分泌される酵素群を無力化する(迎撃する)ことができる阻害タンパク質を分泌して、自らを守ります(守りの抵抗性)。この様に植物と病原菌の攻防は、両者の境界面で繰り広げられる分泌タンパク質同士の分子レベルでの攻防と見ることもできます。本研究では関連するタンパク質、特に植物の生体防御タンパク質であるPR proteins(Pathogenesis-Related Proteins)に注目し、両者のバトルの実体をとらえ詳細を可視化し、理解したいと考えています。新たな環境循環型の品種や農薬の開発に寄与することを目的としています。

環境と植物を主なターゲットとしたメタルバイオサイエンス(生命金属機能科学)に関する基礎・応用研究

 微生物から動植物およびヒトに至るすべての生物にとって、金属元素は単体のままで存在したり、あるいは多量に蓄積すると極めて有毒です。一方、ほとんどの金属元素は、生体内において生体維持や様々な生理機能に重要な役割を果たします。このような金属元素が担う重要な役割は、金属元素がタンパク質と結合することによって発揮されることが明らかになってきました。

 しかし、生体内に取り込まれた金属元素が多数のタンパク質の中から目的タンパク質を如何にして探し当て、どのようにして正しく結合するのか、また、細胞内外の金属元素濃度を感知して吸収・輸送をどのように制御しているのか、解明されていないことも多く残されています

 当研究分野では、植物を用いて、生体内における金属元素動態(感知・調節・運搬)を制御するタンパク質に着目して、植物が金属元素を効率的に活用するメカニズムの解明に取り組んでいます。最終的には、得られた成果をもとに、レアメタル資源回収・環境浄化、高機能タンパク質の生産系の構築、ストレス防御システムを活性化した生物の作出、および有用性の高い機能性作物・医薬品の創成を目指します

有用糖鎖の酵素合成および機能性糖鎖を利用した酵素・タンパク質の性質解明

 第3の生命鎖である糖鎖には単純なものから、複雑なものまで様々な種類があります。その多様性は3つの鎖(核酸、タンパク質、糖鎖)の中では最大で、それだけに生物にとって重要な分子であることがうかがわれます。例えば特定の構造をもつ糖鎖は、プレバイオティクスとして腸内環境を整えたり、酵素の阻害剤となる糖鎖は抗ウィルス薬になるなど、実際にある生物を制御する力を発揮することもあります。私たちは天然の糖鎖もしくは少し人工的に手を加えた糖鎖をプローブ(探針)として利用し、糖鎖に関わる酵素やタンパク質の機能を調べています。また、新しい糖鎖の酵素合成法の確立試みたりしています。 このような切り口から、植物、動物、微生物と、対象を限定せずに糖鎖の関わる様々な生物学(グライコバイオロジー)に新たなページを加えることを目指しています。

アレルゲンタンパク質の立体構造決定

 日本人の約4人に1人が悩まされていると言われる花粉症は、花粉に含まれるタンパク質が原因となっています。花粉の細胞中には100種類以上のタンパク質が含まれていますが、その中で幾つかのタンパク質が花粉症の引き金(アレルゲン)となっていることがわかっています。しかし、どのような構造を持つタンパク質がヒトにとってアレルギーを引き起こすのか、まだわかっていません。私たちはスギ花粉アレルゲンに代表されるアレルゲンタンパク質に焦点を当て、それらの立体構造決定を一つ一つ明らかにすることにより、この謎に迫りたいと考えています。また、近年注目されている食物アレルギーとの関連性にも興味をもっています。