事業概要
事業概要
立場に合わせて、「いざ!」というときに現場で動けるようになるための
救命処置トレーニングを提供する、非医療従事者専門インストラクター。
BLS&FA(Basic Life Support & First Aid)は、フリーランス「たっきーのお仕事」が実施する、非医療従事者(一般市民)を対象とした一次救命処置・応急手当の教育研究事業です。拠点は京都市ですが、関西のみならず全国各地で研修会・講習会を展開しております。
中学生の頃、京都市消防局で最年少、かつ中学生で唯一の応急手当普及員(消防救命講習の指導者)として活動を開始。同時期に京都府で最年少(当時)として防災士の資格を取得し、防災関連事業に携わらせていただいてきました。
その後、神戸市消防局 応急手当普及員・American Heart Association BLS / PEARS® Provider も取得。現在は大学で社会防災学を専攻し、その傍らで蘇生教育の研究をしております。
質の高い非医療従事者向けBLS・FA教育の提供と蘇生教育研究の両輪で、
日常に潜むリスクから市民を守り、
傷病者・救助者の社会復帰と安心安全な社会の実現に寄与する。
東京消防庁が実施した令和6年「消防に関する世論調査」によると、応急手当講習を「受けたことがある」人のなかで、45.8%(n=805)が「応急手当の方法を知っているが、 実施できない 」と回答しています。救命講習を受講した人のうち、半数近くが、現場で応急手当を実践できないと回答したのです。その理由として最も多かったのが「自信がないから」で、74.7%(n=553)でした。
しかし、実際の現場では、もっと多くの人が応急手当をできないかもしれません。「私は応急手当の方法を知っているから、もし目の前で人が倒れても動ける!」と思っていても、いざ実際の現場を目の前にすると、パニックを起こして行動できない、なんてことも少なくないのが現実です。
蘇生教育業界の末端にいる者として、救命講習受講者のおよそ半数が救命処置を実施できない、そしてその多くが応急手当をする自信がないという現状は、看過できないものがあります。BLS&FAで救命講習を受講された方へのアンケートでは、93.8%の方が、「自信をもって動ける」と回答してくださりました。なぜ、これほど数値に違いがあるのでしょうか?
BLS&FAでは、「なぜ?」がわかる座学と リアリティのある実技 に重点を置いたトレーニングプログラムを展開しております。
座学はグループワーク形式で実施し、ディスカッションを多用することが多いです。受講者層にあわせた課題やクイズを提示し、「なぜそう考えたのか」という点も含め、グループ内で意見を共有していただきます。また、受講者の方からの質問にも丁寧に対応し、十分な理解に結びつけます。
実技では、シナリオを利用したシミュレーショントレーニングを実施します。多くの救命講習では、「傷病者は仰向けで、簡単に脱がすことができる服を1枚だけ着ていて、男性で、AEDを用いて、電気ショックが必要である」というパターン化されたシナリオになっているかもしれません。BLS&FAの講習では、それをすべて覆します。
たとえばAEDのパッドを貼るために傷病者の服を脱がせるとき、訓練用マネキンが重ね着をしていたらどうでしょう。ファスナーを下ろした瞬間、中に服を着ているのが見えて、ある受講者の方は「え~!そんなことある!?」と仰っていました。しかし、現場ではむしろ「そんなこと」しかありません。普段から訓練用マネキンのように、ファスナーを下ろしたらすぐに肌が露出する服を着ている方は、ほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。
それから、訓練後のフィードバック・デブリーフィングも重要です。「やりっぱなし」ではなく、具体的に訓練内容のどこがよかったのか、反対にどこを改善するとよりよいのか、訓練映像を参加者全員で視聴しながら、意見交換をします。
受講者の「なぜ?」に応え、受講者が実際に遭遇する可能性が高く、パニックになる可能性が高い現場を模した訓練を行うことが、受講者の方々の自信につながっているのではないかと考えております。
こんな経験がある方、いらっしゃいませんか?
★職場(幼稚園)で受けた救命講習で、講師に「応急手当による法的責任が問われることはない」と言われた。
★職場(小学校)で受けた救命講習で、講師が「人工呼吸をしても救命率は変わらないから、胸骨圧迫とAEDだけでいい」と言っていた。
★看護学生の頃、学校に消防の方が来て、心肺蘇生法を教えてくれた。
これらの例は、いずれも「普及啓発活動」と「業務上必要な訓練」を区別できていない、誤った指導といえます。
★教職員・介護施設職員・警備員などは応急手当の責任が問われる
JRC蘇生ガイドラインにも、刑法第37条「緊急避難」と民法第698条「緊急事務管理」の規定により、「悪意または重過失がなければ、実施者である市民が傷病者等から責任を問われることはない 」とされていますが、その主語は「法的に義務のない第三者」です。刑法第37条第2項にも「前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない」と定められており、業務として心停止対応などをする場合には、法的責任が問われますし、近年の判例をみても、判決は年々厳しくなっている傾向にあります。
★人工呼吸は「不要」じゃない
2008年にアメリカ心臓協会(AHA:American Heart Association)が発表した「Hands-Only CPR」では、人工呼吸を省略した胸骨圧迫のみの心肺蘇生を実施しても、人工呼吸を含めた心肺蘇生と比較して、救命率は低下しないということが示されています。また、2020年から国内でも大流行した新型コロナウイルス感染症の影響を受け、厚生労働省も「人工呼吸はしないように」と発表しました。こうした影響により、「人工呼吸はしなくてよい」という噂が流れ、そのように指導する指導者もいるようです。
しかし、「Hands-Only CPR」は、救助者がバイスタンダーであることが前提で、かつ①傷病者が成人であること、②倒れる瞬間を目撃していること、が条件とされています。これは、小児の心停止の場合・倒れてから時間が経過している場合・窒息や溺水などの場合には、人工呼吸が重要であることが、蘇生科学的にわかっているからです。
また、2025年3月現在、新型コロナウイルス感染症は感染症法上の「5類感染症」に分類されており、「感染症流行下」ではないと解されますので、コロナ流行前と同様、人工呼吸の実施が推奨されます。ですので、業務として救命処置をする場合、人工呼吸をしなかったことについて責任を問われる可能性も低くありません。
★消防救命講習はバイスタンダー向けに設計されている
消防が医療系の専門学校などに出向いて救命講習を実施するというケースは、SNS上などでも散見されます。しかし、消防の救命講習は病院外で起こる心原性心停止を想定して設計されており、医療従事者向けの内容ではありません。加えて、求められるレベルや、救命処置の手順(アルゴリズム)も、一般市民とは異なります。
また、そもそも学費を徴している学校の授業の1コマを、消防が無償で担当するということ自体、税金の搾取といえるのではないでしょうか。
これらの例からもわかるように、法的に義務のない第三者である「バイスタンダー」(通りすがりの人や家族など)と、法的に救護義務のある立場である「レスポンダー」(教職員・介護職員など)では、現場で求められる水準が全く異なりますし、それに伴って講習の内容も異なったものとなります。加えて、業務対応であれば、チームでの連携した活動や、記録をとることも要求されます。またバイスタンダーでも、道端で倒れている赤の他人とわが子では、救命に対する「本気度」が変わってくるものでしょう。
さて、そろそろ冒頭の「立場に合わせて、『いざ!』というときに現場で動けるようになるための救命トレーニング」という言葉の意味が、おわかりいただけたのではないでしょうか。
現行の国内の蘇生教育には既述の通り、バイスタンダーとレスポンダーの棲み分けという点で様々な課題があります。私が大学で研究しているのがまさにこの分野でありまして、「非医療従事者レスポンダーに対するBLS教育」を専門としています。
日本国内では現状として、レスポンダー向けとして設計され確立・一般化された蘇生教育カリキュラムや制度が存在しません。現状としては、①消防や日赤、ボランティアなどによるバイスタンダー向け講習を受講する、②そもそも救命講習を組織として実施していない、というケースがほとんどです。国内でほぼ唯一、レスポンダー向けの蘇生教育プログラムとして運用されているのがアメリカ心臓協会(AHA)のBLSプロバイダーなどのコースですが、これは民間によって海外から輸入された制度で、国内の法令や医療事情に即して設計されているものではありませんので、本邦で運用するには不完全といえます。
今後、どのようにすればその空白を埋めていくことができるのか、日々頭をひねっているところです。
そのほかにも、救命処置や蘇生教育にまつわる課題や問題点、一般には知られていないトピックは様々あります。たとえば救助者の心的ストレス、AEDの正しい使い方、蘇生科学etc...。
おっと、ここから先はBLS&FAの講習で。皆さんと講習会場でお会いできることを、楽しみにしております。