ひとは、どのようなひとに惹かれるのだろう。


よく言われるのは、自分に似たひと。あるいは、自分にないものを持っているひと。


この映画を観て思う。自分のことを見透かしてくれているだれかを、ひとは望んでいるのではないか。


それは「他者」だ。


自分のことを理解してくれている「他者」。ほんとうは、ふれてほしくはない部分に、平気な顔で、ふれてくる。

しかし、嫌な気持ちにはさせず、その指摘を指摘として受けとめることができるように導いてしまう存在。


あるとき、自分では認めたくないナイーヴな局所に踏み込み、そのことによって、自身が別の次元へと進めるかもしれないと

予感させてくれる「他者」の到来を、わたしたちは待っている。


それもまた、未知への憧れであり、ときめきの降臨。


松田龍平が体現する人物の声のフォルム。

「彼」を見つめる綾野剛のまなざしの深度。


ふいに、おのれの無意識に遭遇してしまうような時間の経験。


それもまた、映画なのである。