郷土愛はない。

わざわざディスるほどの憎悪もないが、「わがナントカ」と誇る気持ちも持ちあわせていない。

中学から大学まで。もっとも多感な時期を過ごした仙台は愛着もあるが、それは土地に対するものではない。あの頃出逢った映画やカルチャー、初めてお付き合いした女性、ふたりの文通相手との蜜月。相当に美化も施された想い出という記憶未満のあれやこれやへの執着でしかない。

生まれ育った青森県十和田市には何もない。幼稚園までしかいなかったから、ではない。祖母が働いていた十和田湖なら風光明媚だし、日本人なら一度は行ったほうがよいデカすぎる湖だよ、きりたんぽが美味いんだ十和田湖は青森をはみ出しているんだよ、と湖好きの一人として言い添えたりもできる。が、十和田市は十和田湖町から遠く遠く離れている全く別の場所だ。

大人になってから、十和田市現代美術館が出来た。金沢20世紀美術館をぐっとスモールサイズにしたようなミュージアム。青森の星、奈良美智の作品もあるにはあるが、まあ、奈良は十和田とは特に関係ない。自慢できるとしたら、収蔵作品ではない。

小さな美術館の小さなカフェ。小さいのにがらんとしている。大して客が来ないからというのはもちろんだが、あのがらんには得がたいものがある。清潔だが、がらん。

わびしいとも、さみしいとも違うがらん。がらんがらんがらんとエコーをかけると、少し愉しくなってくる。

美術よりも美術館が好きな自分は、十和田市現代美術館のカフェのがらんに独自性を感じる。そこには、明らかになにかが欠けている。だが、その欠落がやけにチャーミングなのだ。

郷愁でもレトロフューチャーでもない。まあまあ新しいのに、がらん。この味はなかなか他にはないものではある。

エスプレッソが美味かった気がするが、別に自慢できるクオリティでもない。店名は忘れた。今年法事で久しぶりに帰郷するが、今のところ行く予定はない。