あなたがいるから、いま、松崎町へ向かう。
11月最後の金曜日は晴天なり。休みをとっているメンバーが多いから、午後のオフィスは閑散としている。オフの日にこんな青空なの最高じゃん。チームの島で出社しているのは自分ひとり。『あなたがいるから』のまえがきに書かれていたプレイリストをSpotifyのマイリストに追加し、イヤホンで聴きながら作業。はかどるわ。
文章教室の先生はレターパックライトで本を送ってくださった。「書籍」と書かれた文字は備考欄を大きくはみ出していた。一冊一冊ご自身で発送作業される情景を思い浮かべながらラベンダー色の表紙を眺め、リュックにしまい込む。
師走に入った翌週金曜日も穏やかな冬晴れ。ひんやりとした空気で澄みきった空は高い。いつもより少しだけ早起きして静岡の自宅を出る。東海道線の上り電車に乗って清水駅まで揺られ、駅からほど近い清水港のフェリー乗り場に到着。フェリーはこの港から駿河湾を東進する。出航したあと白く泡立つ波の軌跡の先に遠ざかる清水港をしばらく眺め、ひとつ満足したところで一服。船内の自動販売機で買った紙カップの無糖コーヒーを飲む。
海の色が濃くなってきた頃、リュックからラベンダー色の本を取り出す。デッキの上で潮風を浴びながらページをめくり、たまに空を見上げる。冬の白い光が海面に反射し、屈折し、偏光する。眩しくて一瞬景色が消えてなくなる。ふたたび視界に色が戻ってきたところで目的地の方角に目を向けてみる。思索はめぐる。
わたしは洋上を漂う旅人。空の青と海の青にはさまれた世界にいる。こんなに気持ちのいい場所にいながらも些末な日常のあれこれのことがよぎったりするが、2色の青で上塗りしてかき消した。うとうととデッキのベンチで船を漕いでいると船内アナウンスが流れ、目を覚ます。島影はもう大きくなっていた。あわてて下船の支度をする。
汽笛が鳴り土肥港に接岸する。Hello 西伊豆。タラップを降りるそのとき、デッキで読んだ何篇かの余韻に満たされながら、この週末のこと、せわしない年末のこと、来年のこと、これからの自分にたいするぼんやりとした未来を得ることだろう。