もう、動けない。
コンビニだけが明るい夜中の1時。誰もいないタクシー乗り場。そこかしこで見たシャッターが、松戸駅とわたしの間に大きく立ちはだかっている。
2011年3月11日。いや、正確には12日。会社のある品川から約30キロのここで、地面にへたり込んでいた。
あんなに揺れて、あの子たちは怖がっていないだろうか。心配でたまらなくて状況もよく分からぬまま、23階ぶんの階段を降りて品川駅へ向かった。普段はたくさんの人が行き交う駅の改札にはシャッターが降りていて、ホームに入れない。もしかして大変なことが起きている?ようやく実感し始めた。
歩いて自宅へ向かうことにしたのは、へたり込む8時間ほど前。道すがら、コンビニに寄った。棚から食べ物がきれいさっぱり消えている。大きな国道沿いを歩いたけれど、車は10分で10センチぐらいしか動いていない。地下鉄の入口は、どこもふさがれている。
幸い母に連絡が取れて、保育園に迎えに行ってくれた。
ママ友から電話がかかってきて、「迎えに行こうか?」と申し出てくれた。
何も心配はいらない、と冷静に思う自分と帰らなければ、と焦る自分がせめぎ合う。
疲れが歩くペースを鈍らせる。横を通り過ぎる自転車のライトに、ハッとする。
ファミレスでひと休みした頃には、すっかり暗くなっていた。いったいあと何キロくらいあるのだろう。スマホを取り出してみたら、バッテリーが切れている。失態。もう歩き続けるしか選択肢はない。
あれは…2時間くらい前だったか。お尻と片手に地べたの冷たさを感じながら、電源の切れたままのスマホ画面を見つめる。目の前にコンビニはあるけど、ただの大きな懐中電灯だ。タクシーが来るまであと4時間、ただただここでボンヤリするしかないことを、わたしはまだ知らなかった。