はるまふじです、と名乗る。

「相撲がお好きなんですか?」と訊かれる。

たいてい、ここまでがワンセット。


無理もない。「はるまふじ」と聞けば横綱・日馬富士を連想する人がほとんどだろう。そういうひとには、会話の流れで由来を説明するかどうか決めることにしている。話したら引かれてしまい、微妙な空気になることがあるからだ。


2020年に突然いなくなった推し俳優が、以前ミュージカル『キンキーブーツ』の宣伝のためバラエティ番組に出演していた。設定された合計金額通りの注文ができるかを競うコーナーで、食べて、飲んで、笑って。

流れは忘れてしまったけれど、司会のお笑いタレントが突然彼を「ハルマフジ」と呼んだ。同時にでかでかと画面に重ねられた「春馬ふじ」の文字が記憶に残った。


劇場で観た『キンキーブーツ』のローラは、鮮烈だった。体中の血が沸騰する中、忘れかけていた「春馬ふじ」の文字がフラッシュバックする。

彼の姿が消えたあと、どうしても何か書いておきたくなった。忘れられないテロップから名前をいただいた。


「春馬」と「富士」


はるまふじです、と口にするたび、爽やかな青空を駆ける馬形の雲とお馴染みの雄大な山の映像とが、重なって立ち上がる。

エンターテインメントを楽しみ、文章を書き、友人と語ると同じイメージが浮かぶ。

彼が愛した世界をもっと見つめようとしたら、たくさんのテレビドラマや、映画や、舞台や、ミュージカルや、本と出会えた。

はるまふじとして書くことで、わたしは彼の愛した世界とわたしたちを結んでいる。

それぞれのフィールドで活躍するひとたちの表現にこころ震わせ、書き、話すたび、浮かんだイメージが彼の姿を横に連れて来てくれるような気がする。


はるまふじです、と名乗る。

「相撲がお好きなんですか?」と訊かれる。


次は会話の流れに関わりなく、ちゃんと由来を説明することにしよう。