オフ・ブロードウェイでミュージカル『RENT』がはじめて上演されたのは、28年前。当時としては異色の作品を友人に勧められ、DVDで観たのはいつだったか。あまり観たことのないロックやR&B、ポップス、タンゴなどありとあらゆるジャンルの音楽で紡ぐミュージカルが新鮮で、いつか劇場で観たいと思った。
『RENT』を代表する曲、「Seasons of Love」に惚れた。あまたのミュージカル曲の中でトップクラス。疾走感あふれる音楽で彩ってきた第1幕から一転、第2幕の始まりは優しいメロディが寄り添う。525,600分。1年を愛で測る。シンプルな歌詞は第2幕の「これから」を示している。
邂逅は2022年5月。『RENT』ブロードウェイキャスト来日公演。渋谷ヒカリエの11階で、わたしは『RENT』の放つむきだしのエネルギーと、はじめて対峙した。
圧倒的な音楽のパワーに魂を揺さぶられる。身体じゅうが熱を帯びる。
「Seasons of Love」が耳から涙腺を刺激する。
How do you measure a year in the life?
How about Love?
人生の1年をどうやって測る?
愛で測ってみてはどうだろう?
キャスト全員が横一列になって、歌いあげる。
愛で彩られた季節。愛で彩られた時間。友の1年を、人生を愛で測る。じんわりと胸に染みわたる旋律に、パワフルな歌声がひとつずつ重なっていく。彼らの亡くなった友への思いが、10年以上前に友を亡くした自分にオーバーラップする。涙が止まらなくなる。
曲に心を奪われてストーリーを忘れかけていた。ニューヨーク・イーストヴィレッジに暮らす若きアーティストたちの、ままならぬ1年間をクリスマスから描いていたのだった。流れを無視して唐突に置かれた曲は、今からはじまる物語のフリ。涙はこの後に取っておこう。
525,600分を、愛で測る。
亡くなった友の周りは、いつも賑やかで愛にあふれていた。彼女と過ごした1年1年もまた「Seasons of Love」。