カレーといえば、金曜日。


潜水艦で長時間を過ごしていると曜日の感覚がなくなるため、決まった曜日にカレーを出すのだとどこかで聞いた。まるで海の底の自衛官みたいな習慣が金曜夜の我が家に定着しつつある。仕事で忙しくてわたしが食事を作れない日が増えたからだ。


交代要員・夫の料理のレパートリーは非常に貧弱で、カレーか買ってきたおでんのどちらか。トマトをベースに冷蔵庫の余り野菜を使って作る彼のカレーを、残業帰りの夜更けに食べる。ちくりと胸を刺すやましさをかき消すように、散らかり放題のキッチンを片付ける。


今年のホワイトデー。3月二度目の週末には人生二度目のディナーショーの予定が入っている。春物のワンピースを購入し、春色の小ぶりのバッグを買い、いつもよりしっかりメイクをして仕事に向かった。早めに退社して化粧を直し、アクセサリー類を装着して会場へ。小さなバッグにチケットと財布とスマホとハンカチを詰め込んだ。靴を履き替え、パソコンの入ったリュックとぺったんこの靴をクロークに預ける。いざ3階。


独特のネーミングのオリジナルドリンク。見ているだけでワクワクする色とりどりの前菜。美味しいに違いないピンク色の牛フィレ肉。かわいらしいデザートプレートとコーヒー。同じテーブルの皆さんとの弾むおしゃべり。大好きな俳優さんの歌。近くを通り過ぎた後の残り香。薄いハイタッチ。握手。キラキラの過剰摂取で脳がきちんと働かない。フワフワしたまま家路につく。


ただいま、と言いながら玄関で靴を脱ぐとカレーの匂い。夕食は要らないと言うのを忘れていた。ワンピースを脱いでハンガーにかけ、部屋着に着替えておずおずとダイニングへ。温め直されたカレーが食卓に置かれている。スプーンで一口。そう、茄子が余っていたよね。二口目を頬張る。いつもより丁寧に後片付けをしたら、この三割増しのやましさは消えてくれるだろうか。