卒業アルバムの 最初の春のページ
無邪気に笑うわたしがいる
テレビの向こうから聞こえてきた歌声が、脳を揺さぶる。インターネットがまだ庶民には使えない時代。衝撃は一夜明けても続く。学校で友達に訊きまくった。あれはいったい誰なんだ、と。
『笑顔の行方』が、Dreams Come Trueとわたしのファーストコンタクト。あれからずっとドリカムを聴いている。出会った頃は、吉田美和が魅せる詩の世界に住んでいた。恋に恋する10代のわたし。2012年に金環食があることを、1990年に知る。セーラー服のわたしは、2012年大好きな人と金環食を観ることを夢想した。カラオケで歌う曲はほとんどドリカムになった。大人になって自由に使えるお金が増えてからは、ライブにも行くようになった。
吉田美和の歌声は、沈んだ心をいつも引っ張り上げてくれる。時に背中を強く押し、時にそっと隣にいる。
若いころには良さがよく分からなかったアルバムがある。1995年発売の『beauty and harmony』。「美和」をそのまま英訳したタイトルでのソロデビュー。これぞJ-Popというドリカムサウンドとは違う、ジャズありブルースありの多彩な曲たちがつくる宇宙。大学にも慣れ、友達と行ったカラオケでTRFやglobeを歌ってしまうわたしには遠すぎた。
ふとしたきっかけでまた『beauty and harmony』を聴いてみた。歌詞が作り出す世界観は出会った頃と変わらない。だがもう詞の世界は刺さらない。代わりにサウンドがわたしを魅了する。吉田美和という歌い手は、こんなにも自由だったのかと驚かされる。アカペラやジャズにソウルフルな歌声がとても心地よい。聴きながらつい、身体が揺れる。
2012年の金環食。小学校の校庭で家族4人観た天体ショーをとっくに過ぎたいまも、吉田美和はわたしを酔わせ続けている。