どこへ行くのも一緒だった。ともにハイキングもしたし温泉にも入った。もしかしたら温泉は良くなかったのかも?日曜の昼下がり、変わり果てた姿を眺めていた。
ふと思い立って箪笥の奥から引っ張り出したティファニーは、結婚前の夫からもらったはじめての誕生日プレゼント。黒く変色していた。別の指輪が左手薬指のポジションについてから、もう20年以上になる。
「ねえ、これ見て」
指輪を見せてみる。ソファーからわずかに身体を起こして、よくわからない物体を見やる夫。
「急にどうしたの?見つけた?」
「別に。しまい込んであっただけで失くしてはいないよ」
ソファーに再び沈み込み、スマホで何かを検索している。「シルバーだから店にもっていかなくても綺麗にできるよ」。うん、さっきググった。教えてもらった通りの準備をしていると、娘の部屋から笑い声が聞こえてくる。スマホで動画でも観ているのだろう。もう片方の部屋はシーンとしている。高3の息子は今日、模試を受けに出かけたままだ。
アドバイスに従ってみたものの、一度では綺麗にならなかった。もう一回試してみるとしよう。二度目で元の輝きを取り戻してくれるのを期待しながら、我が家の最寄り郵便ポスト・ローソンへ。ハガキを投函し、猿田彦珈琲のカフェオレを冷たい飲み物の棚から2つ手に取り、ぐるっと回って無料の月刊冊子をラックから抜き取る。支払いを済ませてローソンを出ると、抜けるような青空。暑い。冷凍庫にある今年の新作アイスを思い出し、だれかに食べられていませんようにと祈る。それよりあの指輪はどうなったかな。そろそろ頃合いだけど、まだ黒いままだったらどうしよう。人差し指にぴったりのサイズだったんだけどな。
歩くスピードを、ちょっと上げてみた。