保育園での思い出で一番先に思いつくのはお昼寝の時間だ。
毎日定時にお昼寝の時間があって薄い布団が一斉に敷かれて皆んなせーの!でお昼寝する。
私はこのお昼寝の時間が苦手だった。どうしても寝ることができない。隣からすうすう健やかな寝息が聞こえると焦り出し、先生が見回りに近づくと固く目を閉じて寝たふりをする。
固く目を閉じていたら寝たふりしているのがばればれだ。きっと先生たちにはお見通しだっただろう。
けれど先生に眠れないと訴えることなど絶対に出来ない。
幼い私にとって寝たふりでやり過ごすその時間は永遠のように長かった。
お昼寝の時間が近づくとたった4歳の女の子は大人びた達観のため息をつく。
「あーあ。またお昼寝の時間だ」
今でもその時のことを思い出せばすぐにその自分に戻ることができる。
それはずっと結構な大人になるまで尾を引いていた。
周りの様子を見て目立たないように波風を立たせないようにやり過ごす。
一見すれば穏やかで裏表のない人。
でも心の中はずっとお昼寝の時間の私だ。
いつも周りを気にしていた。
人に気を使っていると思わせると相手が逆に気を使うから気を使っていないように振る舞う。結果、気を使わない人と思われる。
考えすぎて1人勝手にモヤモヤしていた。
今はだいぶ楽に生きられるようになった。歳を重ねるということ、そして人との深い関わりによって徐々に徐々に解き放たれてきた。だいぶ遅い成長ではあったが。
根底は変わらないので時どきは人との付き合いがどうにも面倒くさくなる時がある。しかし概ねうまく乗り越えている。
人に気を使わせないように気を使わなくなったら本当にあんまり気を使えない人になっていた。
それもなんだか一周回って愉快なくらいだ。
人に弱みを見せることの楽しさをもっと若い時に出来ていたら違う人生もあったかなと思ったりしないでもないが、お昼寝の時間の自分がいたから今の自分があるとも言える。