妹と2人でカフェをしている。
小さな可愛いカフェ。いちばんの常連さんはおじさん3人組だ。まあ、おじいちゃんと言ってもいい。
五年前のこと。私と妹、おじいちゃんの2人の4人で旅行に行くことになった。
おじいちゃん達は仲間がだんだん少なくなっている。私達とて女性同士の旅よりも気をつかわなくてすみそうだ。何より面白そうではないか。本音は地域のおしゃれなカフェ巡りとかしたかったけれどコテコテの観光コースもいいものだ。のんびり気取らない楽しい旅になった。
ホテルの仲居さんにおじいちゃん達が、どうでもいい質問をして困らせたりした。笑った。お酒も進み皆んな良い気分だった。
おじいちゃんがその後ホテルのバーに誘ってくれる。こういう時スポンサーになってくれる。おじいちゃんのいいところだ。
そこには1人の青年がいて静かに迎えてくれた。
カクテルのことを詳しく知らない私達は彼にお任せ。
一人一人の好みを短く聞くと、それぞれに美しいカクテルが差し出された。
甘いお酒。その程度だったカクテルの認識がどこかに飛んで行く。今まで飲んだカクテルの中で一番美味しかった。
彼の所作も派手ではないが清潔で無駄がない。
ホテルにはただ従業員として就職し配属でバーテンダーになったという。すぐその魅力に取り憑かれ独自に勉強したのだと話してくれた。
もう一度絶対ここに来ます。そう伝えてバー出た。
翌年にコロナ禍が訪れた。田舎にも休業、隔離の嵐が来る。恒例にしようとしていた旅行も無くなった。
いつかまたあのホテルのあのバーに行ける日が来るのだろうか。
見当もつかなかった。
やがてコロナ禍は過ぎ、旅行も解禁になった。
今度は妹と2人、あのカクテルを飲むためだけの旅行もいいねと話していた。
そこに今年の元旦の能登半島地震が起きた。あの日訪れた能登は大変な被害を受けた。
私達が宿泊したホテルも被害に遭ったようだ。
彼はどうしているだろう。
コロナ禍ですでに転職を余儀なくされているかもしれない。
ホテルの前途を憂いて呆然としているかもしれない。
でもどうかカクテルは手放さないで欲しい。
もう一度あのエルダーフラワーのカクテルを作ってください。
あなたがどこにいても。
絶対に飲みに行くから。