生きるのは自分が想像しえないことの連続だ。
これに思うのは、苦しみや悲しみは割と想像がつきやすいということ。生活はたいがい忍耐の連続だし、人は悪い方向に想像するのが得意だ。
だから喜ばしい感情は想像だにしない喜びで受けとめるのだと思う。
派遣社員で働いていた時のこと。
例えば、店頭に出る女性化粧品の組み上げ・通販の物品のピックアップ、梱包・発送。職種は広範囲にわたり世間の便利を支えている。はじめは単純作業が多くもくもくと一人で完結するものと思っていたが、そうではなかった。
商品を扱う上で数や品違いがあってはならない緊張感の中、実は声かけがとても重要で、お互いに教え合い作業が完成していく。人海戦術はチームワークによって活きる。
ある日のこと、久々に勤務に就いた職場の昼休みにひと回り年下の女子に声をかけられた。
「ねぇ、覚えてる?半年くらい前一緒に検品した時の!あの日水筒置いていったでしょ。洗ったのを事務所で社員さんが預かってるって。」
まさか!
気持ちが上がるように選んだ明るい水色の本体にピンクの蓋の水筒。とっくに諦めたものが手元に戻ってきた。
たまたま現場で再会した子に声をかけられ、しかも帰りがけに忘れかけた私に、昼休みその会話を横で聞いていたおばさんに尋ねられ無事引き取ったというおまけつきだ。
毎日人が入れ替わるのが当たり前の業態だから派遣の立場は煩わしく思われかねない。
しかも縁の下にいて見えざる存在。
けれど思う。物も繋がりも見えなくなる社会で、立場の違う者同士でも少しずつ気持ちを寄せ合うとこんなにも優しさは見える。
人を気遣う余裕のなかった頃、名前すらわからない人たちとの偶然のつながりが詰まった愛すべき数年間だった。