「行きたい場所は、作って壊しできたこの山の上の方。」
求道者のような言い草に苦笑いの鼻息が漏れた。
そう、いつかの眠れない夜。
まぶたの裏にはあの時飲み込んだ言葉たちが、螺旋状に渦を巻いている。
自分のもたげた頭から角度のおかしな背中にかけて後ろ姿が見えると、螺旋の壁に背中と言葉の断面が交互にフラッシュバックし映り込んでは消えた。
現実の暗闇に戻るとふいに手のガサガサ肌が気になった。そういえば面倒くさくなって薬を塗ってなかったかもしれない。塗ったところでアレルギーはほぼ完治しないのだから、塗らなくてもいいのではないかという気になっている。
万事がこんな調子でガレキの山を抱え、壊せてもいないのに気づけない夜だった。
そんな夜をいくつもこさえては越してきた、また朝だ。
仕事柄かもしれないが、壊れるのにはすっかり慣れてしまった。
準備した声かけの言葉、状況ごとに変わる役割、“これが自分”などとこだわっている余裕も意味もない。飲み込んだ言葉は入れ替えて次の言葉に変える。すると入れ替わったとっさの言葉に想像もしない反応が返ってきて思わず笑みがこぼれた。自分が作ったものを壊してくれると未知の嬉しい上乗せがあるのを知った。
今日、家への帰り道。
街灯のポツポツと灯る静かな夜は、一瞬景色が記憶とオーバーラップしていくかの夜と重なる。
そっと窓をのぞき込んだ時に見えた街灯にホッとした眠れぬ夜。
この先がどんな風に積み上がっていくのかわからない未来が今は、暗闇ではなくほの明るく見える。
苦笑いの鼻息はしかし、意外と本気なのだ。
聴きたかった未知の言葉と伝えたかったフレーズが同じ山の上を指しているから。