ボクには1年に1度だけ会う彦星がいる。ひこぼし?そう、相手は男性だ。
七夕ではなく元旦の深夜2時、天の川は高円寺の沖縄居酒屋「抱瓶(だちびん)」
那覇”支店“がある風変わりな店で、エイサー姿のスタッフが小さな沖縄を引越ししてくれる。
門前仲町からタクシーに乗ってやってくるのは、Iさん50歳。ボクの前職であるスポーツニッポンの校閲部の上司だ。早稲田大学を卒業後、30年間ずっと部署移動も転勤もなく校閲ボーイ。早々に結婚を諦め、定年後は那覇に移住する。アルバイトだったボクがスポニチを辞めて3年になるが、毎年お誘いをくれる。
座敷に陣取ると、Iさんは生ビール、ボクは泡盛『具志堅パンチ』で新年を歓迎。海ぶどう、ゴーヤチャンプルー、ジーマーミー豆腐で沖縄の洗礼を浴びたあとは、アグー豚のしゃぶしゃぶで華麗なる琉球人に変身。最後は定番のソーキそばで締める。
中央線の始発までの3時間、話題はほとんどプロ野球。今年も阪神はダメだった、来年こそ巨人が日本一だ…など愚痴のオンパレード。神奈川県人のIさんがタイガースファン、奈良出身のボクがジャイアンツファンという、奇妙な応援合戦が繰り広げられる。
でも一夜の熱をIさんは覚えていない。酒で記憶をなくすからだ。Iさんが酔っぱらうサインは、いつもスティーブ・マックィーンの話が始まったとき。ボクが「シンシナティキッドが最高ですよね」と熱弁すると、Iさんは「砲艦サンパブロにはかなわないぜ」と切り返す。3年連続で同じ漫才をしている我々は吉本新喜劇か?
夜明けの5時になるとIさんは東中野へ、ボクは新宿へ。Iさんのせいで元日は必ず寝正月になってしまう。そんなこんなで、師走に入るとIさんからのメールが来ないかいつもソワソワ。もう今年はないかな?と諦めた12月14日、「高円寺、ご一緒いかがですか?」とおきまりの敬語が。
ボクは世間より一足先にハッピーニューイヤーを迎えていた。