なか卯の店員のお姉さんが「ひとの肌には季節があるよ」と教えてくれた。彼女の診断によると、ぼくの肌は『冬』らしい。


これまで友人からは「夏休みの少年みたいだね、年中」と言われることが多く、少し奥を覗いてくれた気がした。


「お兄さんはクリアで鮮やかな服が似合うよ。スカイブルーとかスノーホワイトとか。あとはピュアレッドもね」


雪山の魅惑にとり憑かれたのは8年前、仕事を手伝うことになった登山家の影響だ。都会の服を脱ぎ捨て、真っ赤なウェアに身を包み、白粉で化粧した山に向かう。


白vs.赤。人間も動物も、色も温度も消え、アイゼンの爪で雪を噛む音だけが響く。自然との紅白歌合戦は凛として荒野。


晴天の日は、炊き立てのコシヒカリのように雪が踊り、曇天の日は雪舟の水墨画のような世界が手招き。神様は美しい風景を困難な場所に置きたがる。



「二度と来るか!」と叫んだときもあったが、いつの間にかワクワク感が支配してしまった。一歩間違えれば死は避けられず、恐怖は最高潮に達するのに、それを求めてブーメランのように帰ってくる。


この8年間で何かを得たのか、それとも何かを失ったのか。冬が近づくと垂涎を抑えられない。