俺には卒業しなければいけない”呪い”がある。


店の外に漂う純粋無垢な湯気とエキゾチックな匂い。孤独な男を誘惑し、毎年の健康診断で再検査に送還する諸悪の根源。


そう、ラーメンだ。


塩分濃度とコレステロールが高すぎる?そりゃ消化しきれなかった麺が血液を流れているさ。だが、自業自得とは言わせない。悪いのはラーメンだ。


気づけば週4回も通い、すっかり日常を支配されてしまった。一体どれくらい人生を捧げてきたのか!


煮干、鶏白湯、信州味噌、どれも無慈悲な磁力だが、やはりシンプルな醤油。何回浮気しようとしても、最後の指が動かない。醤油ラーメンは魔女だ。魔女?そう、魔女だ。


底が透けた佐野ラーメンや喜多方ラーメンのお嬢様も魅惑だが、やはり背脂たっぷり、スープは漆黒、焼豚ドカンのグラマラス。ラーメンとは峰不二子と見つけたり。


途方もない仕込みと修羅の末に到達した職人の美しい湖。レンゲなんて似合わない。箸だけで真剣勝負を挑むのが武士の一分。


味玉は美女に欠かせないジュエリーだからプラス100円。財布に毒だが武士は食わねど高楊枝。最後にスープを飲み干し、どんぶりをドン!と置く恍惚たるや。松平健や高橋英樹が憑依する。


イカンイカン、どんどん沼にハマってしまう。今がブラックホールから抜け出すバニッシング・ポイントだ。卒業式は代々木の鷹の爪か?銀座の篝(かがり)か?早稲田の巖哲(がんてつ)か?


とりあえず明日、新宿の麺屋武蔵で考えよう。