2019年5月1日深夜0時、新宿のコンビニで求人誌と目が合った瞬間ある男を思い出した。


2年前の秋、会ったのは1日だけ。建設現場の日雇いバイトで組んだS。三浦春馬に似た5つ下の28歳だった。


「おはようございます!」と深いお辞儀。一瞬でホストとわかった。平和島の物流センターに似合う作業着でも隠せない艶。現場仕事で食えない新人ホストは多い。


Sは端正な顔立ちの奥に影を落としていた。1年前に沖縄から上京。歌舞伎町の夜を終えると、タキシードを脱いで荷揚げに向かう。睡眠は派遣先に移動する電車のみ。「山手線のシートが一番熟睡できますね」と真顔で言う。


昼休みにシャツを着替えたとき、影の正体が分かった。背中に根性焼きの痕。店では同性愛者の先輩に無理やり体を奪われたこともある。

それでも怒りや悲壮感はなく、映画のあらすじを説明するように淡々と語る口元。絶望を透明化できた男の落ち着きがあった。


荷揚げもホストも今日が最後。来週からは電気技師に転身する。

「半年間付き合った彼女と結婚するんです。技師の資格も勉強中なので睡眠時間は変わらないですね」。深いお辞儀のあと、三浦春馬よりイケメンかもしれない笑顔を残していった。


Sは一般家庭ではなく、スーパーなどの商業施設を担当する。平成に別れを告げたこのファミリーマートのLEDはもしかして…。


静かに天井を見上げた。