乗るのはタイムリミットの二本前。いつからかそれが暗黙で定番になった。後ろから三両目の一番後ろ。今日はいないな。改札を出たらすぐ左、伝言板の横の壁際にもたれて一本だけ待ってみる。これもいつの間にかできた二人のアナログな約束。

ギリギリ膝丈のプリーツスカートに前を開けたハーフコート、デニール厚めのリブタイツ、学校で色指定の紺のマフラーは学校近くまでは両端を後ろに流す一巻きがその頃の私たちのせめてものレジスタンス。伸ばした髪は耳の下で緩く二つに結んで、ほんのり色つきのリップはお守りって名前、ラテン語らしいと誰かに聞いた。

五分もしないうちに強い風が階下から吹き上がる。次の電車が来る合図。定期を駅員に見せながらなだれ込んでくる人の波の中、必死に探す。いないのかな、今日は休みかな。ぴりっと胸を刺すがっかり感。でも次は待てない。伝言板にメッセージを残す。「先に行くね M」、小さめの白い字でキュッキュッと書いていると後ろから肩を叩かれた。

様々なストーリー、出会いと別れ、日々のルーティン。駅は静かな佇まいでたくさんのシーンを目撃してきただろう。多くの喜怒哀楽を飲み込んで吐き出してきただろう。大好きな竹内まりやは少し大人の苦い恋模様を描いていたっけ。私の物語はまずはあの頃の記憶、友達だけが世界の全てだった朝がいつもまっさきにやってくる。

ごめんね、昨日世界史勉強してて朝起きれなくて、と私にカイロを手渡す。寒いのに待たせたよね、と笑う彼女はたしかに寝不足のようで、その横顔は少しだけ大人に見えた。いやおうなくやってくる旅立ちの少し前、分岐点での選択とハードルが私たちを待ち受けている頃。その予感を頭から追い出すように次々とトピックを交わし出口の長いエスカレーターを風にあおらながら昇る。ここではいつも風は下から吹いている。