年末、親との会話。時々あの頃の助言を悔やむことがあるの、と母。そうしていなければあなたは今頃は、と。父は横で黙っている。ドラマならここでもう一度私の人生やり直しだろうか。今回の人生、なにも残せてないのかな。しんどいな。


不意に
「大丈夫だよ、 D N A はここに」
ずっと沈黙だった私の分身が
とんとんと拳で胸を叩く。


張りつめていた全ての心がふっとゆるむ。母がほおっと息を吐く。あなたの声ほっとして落ち着く、とみかんを手にする。空気が完全に 変 わ っ た 。は い 、と み か ん を 分 身 に 手 渡 す 。ああ、泣きそうだ。


本心だったのか、なにを指していたのか、結局 な に ひ と つ 確 か め て は い な い 。性 が 違 い 、まったく似たところもなく、けんかもたくさんした。今は同じ釜の飯でもない私の分身。いや、分身でもない別物。私は彼になにを分けてあげられたんだろう。


ふと思い出す。昨年仕事の都合で人生二回目の引越をした彼。引越の日、新居に運ばれた荷物を手伝ってほどく。すると箱から出てきた の は 見 慣 れ た 麦 茶 、パ ス タ 、調 味 料 の 数 々 。幼いころからの暮らしの記憶をなぞって一人で暮らす家に少しずつそろえていったんだろうか。おなじみのアールグレイの茶葉の缶を見つけてさすがに胸がぎゅうっとなった。


D N A はここに。


そういうことじゃないんだけどね、わかってないね。冷静な顔で言うんだろう。わかってるよ、わかってないけどね。温かさがじんわりと波紋になって私の中に広がり続けている。