一度自分で作ってみたかった。久しぶりの旅。運河沿いの北の観光地。映える景色をスマホに収めた後、ガラス工房に足を運んだ。目当てはトンボ玉。
ガスバーナーでガラス棒を熱し、溶けたら鉄芯に巻き取る。真横にした線香花火のようなそれを火から外さず、芯を水平にする。下へ下へと降りていこうとする玉をいさめながらねじ巻きの仕草で芯をゆっくり一定のリズムでクルクル回す。ある程度整ったら火から外し、変わらず回し続ける。速すぎても遅すぎても乱れてもだめ。リズムを守る。これを繰り返し、でこぼこや歪みを整えていく。
回転を気にすれば水平を忘れ、バーナーとの距離感も危うい。息が合うことの大切さを知る。動画を撮る相方が私の不器用さを笑う。口が尖る。クルクル、クルクル。だんだんいいバランスになる。訪れた季節を刻んでおきたくて桜のモチーフを埋める。バーナーの炎の青いあたりで再び赤みを帯びた球体に桜を押し込む。ぎゅうっ。そのままクルクル、外してクルクル。いつしかなめらかに一体化していく不思議。美しいフォルムをしげしげと眺める。なんとも言えず満たされる。
わら灰に埋めてしばし冷やしたら手にできるという。思いがけず棚ぼたの隙間時間が生まれた。それもまた旅。一望の景色を求めて近くの山頂へと向かうことにした。有名な展望台よりさらに上、地元の人だけが車でたどりつけるという秘密めいた場所を相方は目指す。けものたちが顔を出しそうなつづら折りの細い道の果てでそれは私たちを待っていた。
一面に広がる薄明。上手には海と市街、下手には静かな山々。そのパノラマの上で、切り取ってもすくい取れない青と赤があいまいな境で絶妙に融合する時間。街のきらびやかな灯りは出番を控えて息をひそめ、しばし主役を空に譲っている。そんな演目に居合わせた奇跡に体の真ん中が熱くなる。私も相方も立ち尽くし空の魔法を焼きつける。濃密なマジックアワーが過ぎていく。
ぎゅうっ
クルクル、クルクル…
太陽が地平線とほぼ水平になるわずか半刻(はんとき)ばかり、晴れて空が澄んだ日にだけもたらされるという天空の芸術。刻々とブルーモーメントへと落ち着き、沈み、誰そ彼(たそかれ)へと移り変わっていく様に、ふと、美しいバランスで落ち着いていく私のトンボ玉を想った。
クルクル、クルクル…