セットしてステンレスのスイッチを押す。ガリガリと砕くにぎやかな音、十秒ほどで収まるとやがてコポコポとトーンが静かになる。琥珀色のしずくがガラスのポットに満たされるまで、なんともいえない幸せな香りがあたりに充ちていく。今朝は北欧の花模様のカップ。

 

昼はなにかに追われている。自分は怠惰じゃないといいわけするみたいに仕事とルーティーンを組み合わせていく様は市松模様のよう。それをきれいだと眺める満足感を幸せと思い込んでいる気がする。

 

夜は静寂と喧騒のせめぎ合い。春先に重なったダメージ以来、暗闇でも目を閉じても疲れていてもなかなかやってこない眠り。様々な断片がフラッシュバックで頭の中を行き来する。じっとしているのに消耗する。

 

そんな昼と夜。歌詞がぎゅうぎゅうでテンポがまあまあ速い曲みたいだ。懸命に独り歌ってみるけど、つくづく私にはちょうどよくが難しい。ああ、うまくはまらない、ああ、音が余っている。ちょうどよく歌いたいのに、ちょうどよく奏でたいのに。走ったり、乗り遅れたりする、毎日、毎日。

 

そのはざま。外れた調子をリセットする朝。深く吸い込んで、思いきり吐いて。今日こそはいい感じに歌いたい、気分よく奏でたい。ガリガリ、コポコポのリズムはメトロノーム。不均衡でうまくいかない日々でも、丁寧に調えるその時間が私を引き戻す。私が私をつかみ直すひととき。