南の島の海ってこんな色なのか。

誘い込まれるように海の中へ。

まるで空を飛んでいるよう。

色とりどりの珊瑚礁の上空を飛んでいく。

思い切り息を吸い込んで珊瑚礁まで急降下。

見上げると水面がステンドグラスの天井のように輝いている。

私は海に潜っているんだ。


水族館で見たことのあるカラフルな魚が珊瑚礁のまわりに集まっている。

息が続くまで魚と同じ目線で泳ぐ。

珊瑚礁の影に潜む小さくて透明なエビ、迫力のあるイソギンチャク。

悠々と泳ぐネオンカラーの大きな魚。

小さな魚の群れがキラキラと通り過ぎる。


まるで現実感がない。


珊瑚礁で出来た壁のような「リーフ」の内側は波がないと地元の人に聞いた。

私はすっかり海に慣れたつもりになり、岸まで戻れない可能性なんて考えずに一人でどんどんリーフの近くを目指す。

すると、この辺りの主のような貫禄のある横顔が。

ちょっとこっちを向いている。

海亀だ!海亀と泳いてる!

シュノーケルをくわえたまま叫ぶ。


岸から遠くなると、珊瑚礁がまばらになり、視界は白い砂と透明な海に。

ふと、蛇のようなものが泳いでることに気づく。

もしかして、海へび? 噛まれたらまずいんじゃないか。

浮かれた気分がサッとひいていく。

地上にいる時は足も遅いし機敏な動きとは縁がないのに、シュノーケルとフィンがあればどこいけるようだ。

どんどん速度を増して海へびを巻いた。

また色とりどりの珊瑚礁を上から眺める。


朝起きてから日が傾くまで、やることがなければずーっと、本当にずっと海の中にいた。

その海にいた1週間、毎日。

海に取り憑かれた。


ずいぶん月日が流れたけれど、あの初めての海の中の景色は、今も鮮やかに思い出せる。