ブラックホール磁気圏研究会2023

アブストラクト/講演スライド

OCAMI Reports 2022, Vol 7          研究会集録を公開中!

Workshop on Black Hole Magnetospheres 2022        ←  ここをクリック!

M. Takahashi, H. Ishihara, H. Yoshino, K. Nakao, S. Koide, Y. Nambu, H. Saida, Y. Takamori, S. Noda

doi: 10.24544/ocu.20220815-001

Date: August 18, 2022 


講演アブストラクト

  以下の各アブストラクト・講演スライドの二次使用はご遠慮ください。

   => 必要な場合には各講演者に個別にお問合せください。連絡先については本研究会の世話人迄お問合せください。

  パスワード付きの講演スライドは、本研究会参加者限定です。ご了承ください。  

1日目   3月6日(月)

ブラックホール磁気圏のプラズマ源について

高橋 真聡  愛知教育大学

宇宙ジェットは銀河のスケールをはるかに超えて細くビーム状に伸びた、ほぼ光速の双方向プラズマ流である。宇宙ジェットは相対論的速度にまで加速され、その加速機構は電磁気的な機構によるものと考えられる。宇宙ジェットの付け根は銀河中心核のブラックホール重力圏にあるが、磁気的優勢な領域にあると考えられている。宇宙ジェットは、プラズマ源から放出されたのち電磁気的機構(ローレンツ力)によって加速され、ジェット流の電磁気的エネルギーがプラズマ運動エネルギーに転換されていく。

<宇宙ジェットの加速機構>

 このジェット加速の振る舞いを理解するため、定常で軸対称の相対論的磁気流体流解を解析する。磁場が卓越したプラズマ源の領域から放出されたプラズマ流は、アルフェン面、light surface、速い磁気音速面を順次通過し、遠方へと加速されていく。このとき、アルフェン点から速い磁気音速点にかけての領域で磁気流体は効果的に加速され、磁場と流体のエネルギーは同程度になる。それ以降の領域では緩やかに加速され、磁場形状はより回転軸方向にコリメートされつつ、電磁気的エネルギーは流体のエネルギーに転換されていく、この振る舞いは近年のVLBIで観測されており、特にジェット付け根でのプラズマ流加速の様子が見え始めている。M87ジェットについては、Hada et al. (2017)、Park et al. (2019)、また NGC315 については Park et al. (2019) の宇宙ジェット速度場が得られており、これと定常解をマッチさせることで、アルフェン点の位置、light surface の位置、すなわち宇宙ジェットの角速度と角運動量が推定できた。我々が扱う磁気流体の解析解によって宇宙ジェットの形状や速度場が説明可能であることより、宇宙ジェットの加速は磁気遠心力による加速であると理解できる。

<宇宙ジェットのプラズマ源>

 宇宙ジェットが外向きのプラズマ流である一方で、ブラックホール近傍ではブラックホールの強重力が卓越し、内向きの流れが生じなければならない。この重力と遠心力がバランスする領域にプラズマの湧き出し源(プラズマ源)が存在すると期待される。M87ジェットの場合、その位置は回転軸方向にブラックホール半径の100倍程度の距離に、NGC315ジェットの場合は数100-1000倍程度の距離となる。ブラックホール近傍の宇宙ジェット領域はファンネル領域と呼ばれ、それを取り巻く比較的濃い密度のガス降着流あるいはディスク風の領域にとじ込まれている(その境界層をファンネル壁と呼ぶ)。ファンネル領域では磁場が卓越しているため、磁場に凍結したプラズマがファンネル壁から侵入する機構は考えにくい。そのため、(1)ファンネル内部でのペア粒子生成、(2)ファンネル壁でのプラズマ不安定性によるファンネル内部へのプラズマ供給や(3)磁気リコネクションによる大局的スケールでの磁場消失によるダイナミカルナ機構、(4)理想磁気流体近似の破れ、などが考えられる。あるいは、円盤内縁以内の赤道面での磁気リコネクションおよびペア粒子生成などが実現しているかもしれない。この場合、ブラックホールの強重力場を振り切る初速と角運動量が必要となる。

 本講演では、宇宙ジェットの加速機構について解説し、プラズマ源に求められる条件・制限について考察する。

Reference

Kino, M., Takahashi, M., et al. ApJ. 999, 43 (2022)

   ``Implications from the velocity profile of the M87 jet: a possibility of a slowly rotating black hole magnetosphere''

Takahashi, M., Kino, M., et al. PRD, 104, 103004 (2021)

   ``Relativistic jet acceleration region in a black hole magnetosphere'' 

Pu, H. and Takahashi,  M. ApJ, 892, 37 (2020) 

   ``Properties of Trans-fast Magnetosonic Jets in Black Hole Magnetospheres''

Thoelecke, K., Takahashi, M. and Tsuruta, S.  PTEP, 093E01 (2019)

  ``The structure of magnetically dominated energy-extracting black hole magnetospheres: Dependencies on field line angular velocity''

bhmag2023.pdf

相対論的ジェットの粒子供給機構について(事始め)

小出 眞路  (熊本大学)

超長基線電波干渉計(VLBI)観測と一般相対論的電磁流体力学(GRMHD)数値計算の進展により、巨大ブラックホール(BH)のまわりの降着円盤やジェットの機構が解明が急速に進められている。VLBI 観測と整合するGRMHD計算によると、ジェットのエネルギー源はBHの回転エネルギーが引き抜かれて供給されていると示唆されている。しかし、ジェットのプラズマ源については未解明のままである。従来の理想GRMHDの枠組みではプラズマが磁力線を横切れず、ジェットとインフローの境界で密度が減少し続ける。いずれは真空に近くなりジェットは停止するはずだが、数値計算では密度の下限が設定されているため避けられてい る。ここに重要な物理過程が隠れていると考えられる。

 例えば、ジェットの根元の低密度領域で反平行磁場が磁場があると、非常に薄い電流層が形成されると考えられるが、密度が低くなるにつれてその電流層で二流体不安定性が起こると推測される。この二流体不安定性は電流層の崩壊をもたらし、磁場の消滅を引き起こす。磁場の消滅によりこれまで強い磁場により侵入できなかったコロナのプラズマがジェットの根元領域に殺到することになり、プラズマ密度の回復がもたらされると想像される。通常、これまでジェットのプラズマ源として電子陽電子プラズマ(対プラズマ)の生成機構が考えられてきた。今回提案するプラズマ供給機構はイオン電子プラズマ(通常プラズマ)の生成供給機構としてははじめてのものである。講演ではジェットのプラズマ供給源の問題提起と、上記で示した通常プラズマの供給源にとって重要な素過程と注目すべき二流体不安定性の不安定性の閾値の導出について述べる。不安定性の閾値は特殊相対論的枠組みで導出する。また、二流体不安定性を取り扱う理想GRMHD方程式に代わる『拡張されたGRMHD』方程式についても触れる。

bhmag2023_koide.pdf

カーブラックホール単極子磁気圏でのアルベン波の超放射の数値計算

蒲地 真矢  (熊本大学) 


楕円銀河や棒渦巻銀河の中心領域には巨大ブラックホールが存在すると考えられており、なかには超光速度運動を示すジェットが観測されているものもある。そのようなジェットは相対論的速度を持つと考えられ、「相対論的ジェット」と呼ばれている。最近の一般相対論的電磁流体力学(GRMHD)数値計算によると、相対論的ジェットはブラックホールの回転エネルギーが引き抜かれることによるものとされている。ブラックホールの回転エネルギーを引き抜く機構として、地平面を貫く磁力線がブラックホールの空間の引きずり効果によりねじられ、エネルギーを外部に輸送するBlandford-Znajek機構が考えられている。一方、そのようなブラックホールによりねじられた磁力線に沿って伝播するアルベン波が超放射を起こすことでブラックホールの回転エネルギーを引き抜くことも示唆されており、Blandford-Znajek機構との関係も議論されている(Noda et al. 2020, 2022)。

 本研究ではNoda et al. (2022)の結果を検証するためにカーブラックホールでの磁気単極子型定常磁場に沿って伝搬するアルベン波の数値計算を行った。初期にパルス状摂動を与え、アルベン波を生じさせてた。はじめアルベン波は内方向に伝播するが、 ある点付近で反射が起こり、反射した波が外向きに伝搬する様子を数値計算で再現した。初めのパルスと反射点の中間点において時刻tまでに内側から外側に通過したエネルギー総量の数値計算を行なった。反射波がその点を横切り終わると、そのエネルギー総量は0 を上回っている場合があった。この結果はアルベン波の超放射を示している。発表では波の幅や周波数を変えた数値計算の結果を示し、それらの示す物理機構について述べる。

bhmag2023_kawachi.pdf

間欠的磁極反転が作るノットとジェット

森川 雅博  (お茶ノ水女子大) 共同研究者:丹海歩、中道晶香、高橋真聡

 回転する伝導流体は自ら磁場を作り,時々磁極反転する.降着円盤も磁場を作り磁極反転するだろう.この動力学は惑星や星では,マクロスピンモデルでうまく記述できたので,同じモデルを降着円盤にも適用してみた.反転時に磁気再結合が起こり,プラズモイドを加速放出する.これは回転軸方向の弾道的な噴出なので,軸両方向ほぼ対称にノット構造を作る可能性がある.ここでは大局的磁場やブラックホールは不要である.

23.4to24.4.avi

23.4 to 24.4

EarthLike2947.avi

EarthLike2947

ブラックホール時空での磁気再結合の準局所的計算


小嶌 康史  広島大学)     


磁気再結合は高エネルギー現象の重要な素過程である。また、これまでブラックホール時空での理想MHD計算が進んでいるが、非理想過程として考慮すべき課題となっている。非常に局所的に起きる現象を大域的な時空で計算するのは非常に挑戦的なものとなる。ここではその「分業化」を行い、ブラックホールの重力を明確にすることを考える。現時点(発表時点)では、アイデア段階であり、多くの議論を期待する。

bhmag2023_Kojima.pdf

自転するブラックホール近傍での磁気リコネクション

小出 美香  (崇城大学)   共同研究者:小出眞路(熊本大学)

磁気リコネクションは太陽フレアを説明するために1940年代に考えられたアイデアであるが(Giovanelli 1946)、現在ではSgrA*やM87*などのブラックホールから放出される高エネルギーフレアやジェット放射のメカニズムとしても注目されている。我々はブラックホールのまわりに分割単磁極型の初期磁場を設定して、磁気リコネクションの数値計算を行ってきた(Inda-Koide et al. 2019)。計算には一様な抵抗を入れた一般相対論的電磁流体力学(rGRMHD)方程式を使っている。これまで、ブラックホール磁気圏研究会において2019年3月に、自転のないブラックホール(シュワルツシルトブラックホール)で磁気リコネクションがその赤道面のブラックホール近くで起こること、またその磁気リコネクション率の時間変化率が、電気抵抗が小さい(磁気レイノルズ数が大きい)場合には、一定である事を示した。今回、自転するブラックホール(カーブラックホール)のまわりに同様な磁場配位を設定してrGRMHD数値計算を行った結果を報告する。

1. 自転するブラックホールの周りでも、磁気リコネクションが赤道面のブラックホール近くで起こる。

2. 磁気リコネクション率とブラックホールの自転速度の関係について調べたところ、自転している場合といない場合でその時間発展がよく似ていた。ここで、ブラックホールの自転によって磁力線が引きずられるが、磁気リコネクションのX点における磁場の方位角方向成分を調べると、ある時間以降はほぼ一定値になっていた。よって、この時間以降はブラックホールの自転速度に関係なく、磁気リコネクションが起きるものと考えられる。

3.磁気リコネクション率の時間変化率は、ある時間以降、ブラックホールの自転にかかわらずほぼ一定で変わらない。前回の発表では、このことから、この磁気リコネクションをティアリング不安定性のラザフォード段階という非定常的なリコネクションであると結論づけた。しかし今回、リコネクション率の時間変化率の磁気レイノルズ数依存性に関して、数値計算の結果とラザフォード段階の理論が合っていないことが分かった。この結果はラザフォード段階よりも速い磁気リコネクションを示唆している。詳しくは講演で述べる。

bhmag2023_小出美香.pdf

質量分布がつくる非Schwarzschildポテンシャル中の試験粒子の軌道解析

孝森 洋介  (和歌山高専

宇宙にはブラックホールであると強く考えられる天体が多数発見されている。ブラックホールを表すモデルとしては,通常,アインシュタイン方程式の真空解が適用される。しかし,ブラックホールの周囲にはガスや暗黒物質といった質量成分が分布していると考えるのがより現実的である。このような質量成分がどのような観測にどのような影響を与えるのかを整理しておくことは重要であろう。ブラックホールの周囲に質量成分があるような系で,アインシュタイン方程式の厳密解を得ることは困難であるが,質量成分の動径圧力がない特別な状況で,静的球対称な質量分布を表すアインシュタイン方程式の厳密解が得られることが知られている。その重力ポテンシャルは質量分布の影響で,球対称真空解であるSchwarzschild解からずれる。我々は,質量分布がある重力ポテンシャル中の自由粒子の運動を調べた。本講演では,自由粒子の近点移動,ポスト・ニュートン近似における自由粒子の運動方程式の様子などその特徴について紹介する。

日目   3月日(

量子ホール系を用いた量子宇宙シミュレータ


南部 保貞  (名古屋大学)   


量子ホール系において現れるエッジ励起はトポロジカルに強硬な状態であり,その振舞いは質量ゼロのスカラー場の有効理論として記述できる.エッジを動的に変化させる場合には,このスカラー場は(1+1)次元の膨張宇宙上での波動方程式(Klein-Gordon方程式)と同じ方程式を満たす.よって,この性質を用いて膨張宇宙におけるスカラー場が関与する量子現象を実験室内で検証することが可能となる.本講演では,東北大学の実験グループで進行中の実験設定に基づいた理論評価として,エッジ領域がde Sitter宇宙に対応する膨張をする場合を考える.そして,future event horizonの形成に伴うHawking輻射の生成及び,Hawking輻射に伴なうゆらぎの量子もつれの振る舞いについて紹介する.

Keywords: 量子ホール系,de Sitter時空,Hawking輻射,場の量子もつれ

Reference: preprint ArXiv: 2301.09270

bhmag2023_南部.pdf

捩じれた磁場に沿って伝播するアルヴェン波

石原秀樹  (大阪公立大学)     共同研究者:小川達也(大阪公大), 高橋真聡(愛教大)

3次元球面がねじれた1次元球面をファイバーとする2次元球面上のファイバー束で表せることを動機として,一様なベルトラミ磁場を構成し,それに沿って伝播するアルヴェン波を解析した.線形化されたアルヴェン波の波動方程式を導き,円偏光波の解が許されることを示した.右手左手対称性の破れた分散関係が得られ,背景磁場の捩じれのピッチより長いモードが禁止されることを明らかにした.また,右手・左手モードを重ね合わせることにより,偏光面が波の進行に沿って回転する波動解を得た.

 最後に,ベルトラミ磁場に沿って伝播するアルヴェン波は,エネルギーとともに,角運動量も輸送することを明らかにした.

bhmag2023_Ishihara.pdf

軸対称定常ブラックホール周りの薄いディスクが作る磁場

遠藤 洋太  (大阪公立大学

ブラックホール(BH)周りの降着円盤が作る磁場は宇宙ジェットなどを説明するのに重要だと考えられている。本講演では、Schwarzschild BH周りのdisk current が作る定常な真空磁気圏の解析解[1]について紹介し、Kerr BHへの拡張を考える。4次元Kerr時空中でのMaxwell 方程式はTeukolsky 方程式としてスカラー型の方程式に帰着できることを利用して、Kerr BH周りのdisk current が作る定常な真空磁気圏について現状の報告を行う。

[1] A. Tomimatsu and M. Takahashi, Astrophys. J. 552, 710 (2001)

ブラックホール近傍におけるアルフベン波の位相混合

野田 宗佑 (都城高専

運動方程式など(時間)発展方程式の生成作用素が連続スペクトルを持つ場合, 位相混合と呼ばれる現象が起こる。そして, 発展する関数と任意の定常物理量との相関は長時間後に消失する。これを波動方程式で考えると, さまざまな(連続的に許される)モードの混合による波動の減衰が観測される。

 本発表では, まず作用素のスペクトルの分類とスペクトル分解定理を用いた位相混合について紹介する。そして連続スペクトルを持つ波動の例として, 磁力線に束縛されて伝播する横波であるアルフベン波を考える。さらに, superradianceによる波動の増幅が期待できるKerrブラックホール磁気圏内のアルフベン波の位相混合の可能性を調べる。できればsuperradianceによる増幅と位相混合による減衰の関係や, 今後の展望として運動論的な位相混合の解析(ランダウ減衰)についても議論したい。

bhmag2023_野田宗佑.pdf

AGN構造の理論と観測

和田 桂一  (鹿児島大学

活動銀河中心核のBLRスケールからトーラススケールまでの輻射流体モデルとX線から電波までの多波長観測データとの比較についてここ10年くらいの我々のグループの取り組みと最近の進展を概観する

bhmag2023_wada.pdf

活動銀河核近傍におけるインフロー・アウトフローの観測可能性

馬場 俊介  (鹿児島大学)

質量降着中の超大質量ブラックホール、活動銀河核(Active Galactic Nucleus; AGN)には、可視スペクトルで幅の広い輝線を示すか示さないかというタイプの違いがある。この区別は、AGNが光学的・幾何学的に厚い数十pcスケールの遮蔽体、「トーラス」に囲まれており、トーラスが広輝線を異方的に遮蔽することで生じていると理解されている。しかし、アプリオリに仮定されたトーラス構造がいかなる物理機構で成立するのかは、決着がついていない。我々は、トーラスの形成機構として輻射駆動噴水モデル(Wada 2012)を提案し、その検証を進めている。このモデルでは、降着円盤の非等方輻射が非定常アウトフローを駆動し、その一部が赤道面に落下することで、準定常のトーラス構造が自然に作られる。X線照射下での化学反応も加味した流体計算では、原子ガスがアウトフロー優勢の鉛直方向に幅広く分布する一方、分子ガスは質量降着の経路である赤道面に集中して分布するという、多相・多層構造を予測している(Wada et al. 2016)。本講演では、輻射駆動噴水モデルに基づいてこれまでに行われた輻射輸送計算の結果と、実観測とを比較する。そして、AGNにおけるインフロー・アウトフローが原子・分子ガスでどのように観測できると予測されるのかを議論する。

bhmag2023_Baba.pdf

活動銀河中心核における輻射駆動アウトフロー

工藤 祐己  (鹿児島大学

非常に明るい活動銀河中心核で観測されるアウトフローは、銀河中心の超巨大ブラックホールへ供給されたガスのフィードバックとして、様々な物理状態の中性/電離ガスやダスト輻射とその時間変動によって観測される。アウトフローの駆動機構はその強い輻射であると考えらる。Wada (2012, 2015)は、10 pc スケールのトーラス構造を連続波輻射力のダスト流出によって、Nomura et al. (2020) & Mizumoto et al. (2021) は降着円盤スケールの超高速流出(UFO)を電離輝線輻射力の電離ガス流出として、数値シミュレーションからいくつかの観測を説明することに成功している。しかし、両者のシミュレーションは異なる空間スケールに着目したもので、どのように2つの流出過程がAGN全体を伝播していくのかについてはこれまで分かっていなかった。

 そこで、4桁に亘るダイナミックレンジ(10-4 pc - 1 pc)のダストと輻射を考慮した軸対称2次元流体シミュレーションをCANS+コードを用いて実施した。UFOはシミュレーションボックスの中心境界条件として与える。また、UFOと輻射強度はこの境界半径に流入するガスからエディントン比の時間変動として与える。これらにより、輻射強度の時間変化やUFOの物理状態の時間変化をシミュレートすることができるようになった。計算の結果、中心境界条件の外側で測定されたアウトフローとインフローは1年の時間スケールで交互に増加と減少することがわかった。UFOは赤道面からの角度40度以上で優勢であり、ダストの多いアウトフローはそれより小さい円盤表面周辺にあることがわかった。特にUFOはエディントン比の影響に伴ってガス流出量が増加することができるため柱密度が大きく変動する。

bhmag2023_工藤祐己.pdf

Event Horizon TelescopeによるM87の偏光観測とその理論的解釈

水野 陽介  (上海交通大学

2017年4月、Event Horizon Telescope (EHT) は、1.3mmの波長の超長基線電波干渉計によって楕円銀河M87の中心を観測し、巨大ブラックホールとその影の存在を初めて画像で示した。観測されたブラックホールの影は非対称の明るいリング構造を持ち、その直径は約42マイクロ秒角である。EHTは、M87 の中心ブラックホールごく近傍の偏光偏光観測にも成功した。本講演では、EHT によるM87の偏光観測から得られた画像と数値シミュレーションを交えた結果の理論的解釈について概観する。

bhmag2023_mizuno.pdf

EHT公開データから得たM87と銀河中心のより信頼度のある像について

三好 真  (国立天文台)

我々は、M 87 中心ブラックホールについて、the Event Horizon Telescope Collaborators (EHTC) 報告の「約 40 μas サイズのリング」は正しい天体像ではなく、データ較正不足と EHT の像合成時のバイアスによる artifact で あることを示している。

 2022 年 5 月,EHTC 発表の Sgr A* のブラックホール像について、その公開データを調査、M 87 の場合と同様、データの寡少さによる artifact であることをさらに報告する。EHTC の撮像結果(50 μas のシャドー、謎の 3 つ の輝点)はそのPSF (dirty beam) の特徴と共通している。EHTC のブラックホール像はM87, Sgr A* 、2度にわたって、各々のPSF に現われるくぼみの形、大きさと一致している。EHTC はその像合成の解析過程でPSF 形状の deconvolution に失敗し、PSF の特徴に沿ったリング像を得たと考えられる。

 また、我々の独自のデータ解析から、EHTC のリング像よりも観測データと整合性のある別の像を得た。その形状は43, 86 GHz 観測の結果と矛盾しない。ただし、M 87 の場合と比べると、我々の像、EHTC のリング像ともに残差が有意に大きい。EHTC 公開の14種の全データのクロージャ位相、振幅を調査したが、すべてにおいて、二つある記録チャンネル間でそれらの間に差があり、天体情報が正しく記録されていない恐れがある。クロージャは観測誤差には依らず、天体構造のみによってきまる量であるので、極めて理解しがたい現象である。

bhmag2023_MMiyoshi.pdf

プラネタリウムにおけるブラックホールの可視化、天文データの活用

稲垣 順也  (名古屋市科学館

プラネタリウムの機器には光学式プラネタリウムとデジタル式プラネタリウムがある。デジタル式プラネタリウムはリアルタイムに出力されるコンピューターグラフィックス(CG)を使い、様々な天文現象を表現することができる。名古屋市科学館では最新のデジタル式プラネタリウムソフトを使った映像表現を試しており、ブラックホールの可視化もその一例である。本講演ではデジタル式プラネタリウムにおいてブラックホールシャドウや重力レンズ効果をどう表現しているのか紹介する。また天文データの活用の一例として、重力波の到来方向を示すContourMapをドームの全天に映すなどといった事例について解説する。

bhmag2023_inagaki.pdf

日目   3月日(

強磁場中の大振幅電磁波とプラズマの相互作用

佐野 孝好   (大阪大学)

高速電波バースト(FRB)と呼ばれる天体現象では、ミリ秒程度の短い持続時間の高輝度電波放射(振動数は1GHz程度)が観測されている。この電磁波の無次元化された振幅は、いわゆる相対論的強度を超える領域に相当する。FRBの放射源及び放射機構については未解明であるが、マグネターと呼ばれる超強磁場を持つ中性子星との関連が指摘されている。もし電波源が中性子星のごく近傍にあると仮定すると、この高強度電磁波は中性子星磁気圏を通り抜ける必要がある。磁場が存在しない場合、相対論的強度の電磁波の伝播特性は、レーザープラズマの分野で詳しく研究されている。しかし、現状の高強度レーザー実験では実現不可能な超強磁場下での理解は、未だ不十分な点も多い。そこで、我々はFRBで予想されるような極限プラズマ下での波動粒子相互作用をPICシミュレーションを用いて解析している。本講演では、磁場に起因する特徴的なプラズマ加熱現象や将来のレーザー実験による検証の可能性などについて紹介する。

bhmag2023_sano.pdf

相対論的レーザープラズマ相互作用における電子・陽電子対生成

杉本 馨   (大阪大学)

最新の超高強度レーザーと物質が相互作用することで、相対論的なエネルギーを持った荷電粒子やX線・ガンマ線のような高エネルギー光子が大量に駆動される。この相互作用で発生する高エネルギー光子を線形Breit-Wheeler (BW) 過程の実験検証に利用する研究が進められている。線形BW過程は2つの光子が衝突することで電子・陽電子が対生成される現象であり、宇宙空間での陽電子生成やX線・ガンマ線のオパシティに寄与すると考えられている。 本研究では、陽電子生成を含めたレーザープラズマ相互作用を解析するため、線形BW過程による陽電子生成アルゴリズムを包含するParticle-In-Cell (PIC)シミュレーションコードを構築した。これにより高強度電磁場と荷電粒子の相互作用による高エネルギー光子生成および陽電子の生成・加速までを自己無撞着にシミュレーションできるようになった。 発表では研究で使用しているPICの計算モデルの概要とこれまでに行なったシミュレーション結果について報告する。 

bhmag2023_Kaoru_SUGIMOTO.pdf

Axion BEC DM上の量子渦による宇宙ジェットのコリメーション

丹 海歩  (お茶ノ水女子大)

本研究は宇宙ジェットが細長くコリメートする機構をアクシオンがボーズアインシュタイン凝縮したダークマターに生じる量子渦で説明することを目的としている。ダークマターが回転することで生じた量子渦によりジェットの渦度がトポロジカルに保護されるのではないかという仮説のもと、アクシオンとプラズマの相互作用や磁場の影響などを考えている。

2023BHmag_丹海歩.pdf

 自明でない磁場中でのアクシオン光子転換

早田 次郎  (神戸大学

LHCでWIMPが発見されなかったことから、近年、アクシオン暗黒物質の研究が盛んになっている。アクシオンはもともと素粒子モデルの整合性から予言された素粒子である。仮に、アクシオンが暗黒物質ではなかったとしても、宇宙磁場が存在すれば、アクシオン・光子転換現象によって宇宙論的に興味深い現象を引き起こす。これまでの研究では、一様磁場中でのアクシオン・光子転換が主に研究されてきたが、本講演では、自明でない磁場中でのアクシオン・光子転換現象が重要となる場合があることを説明し、いくつかの具体的な問題を議論したい。特に、ヘリカルな宇宙磁場の場合に焦点を当てる。

bhmag2023_Soda.pdf

 相対論的流体中の光子多重散乱計算の高エネルギー宇宙線源における粒子多重散乱現象への応用

高橋 労太  (苫小牧高専)

ブラックホール降着流、降着円盤や噴出流、相対論的宇宙ジェット、パルサー近傍での高エネルギー粒子の伝播などの多くの天体周囲の物理現象を理解するために、流体中の粒子の多重散乱現象の時間発展を正確に計算する必要がある。このための手段として、相対論的なモンテカルロ・シミュレーションや輻射輸送シミュレーション、輻射流体もしくは輻射磁気シミュレーションが用いられることがある。最近では、粒子の位相空間中で一般相対論的輻射輸送方程式を直接数値的に解くことも行われている。状況が光学的に薄い場合には、ブラックホール時空中の一般相対論的光子追跡法の結果を正確に再現することが可能な計算手法も開発されている。粒子の多重散乱が起こる場合には、多重散乱を受ける粒子の時空中での集団的振る舞いの時間発展を厳密に因果律を保つ形で取り扱う手法が存在しない。特に、光学的に薄い状況と暑い状況にある中間的状態は正確に理解されていない。過去の手法の中には、統計的分散が大きい場合や因果律を破っている場合などがあり、これらの手法では現象の物理的(および数理的)に正確な理解には至らない。

 これらの問題を解決するために、我々は相対論的流体中で繰り返し散乱を受ける光子の時空中の集団的振る舞いを記述する確率密度関数の解析解を導出した。また、この解析解により、相対論的流体中の光子モンテカルロ・シミュレーションでは(計算機資源の限界のため)計算が困難な領域においても、用いている数値精度の解を与えることが可能である。今回、これまでに得られた確率密度関数の解析解から、光子数保存則の記述に使われ、一般相対論的シミュレーションで用いられることがある光子数密度フラックス4元ベクトルの解析式を得ることに成功した。これにより、相対論的流体中での多重散乱光子の光子数密度フラックスの時間発展を正確に記述できる。一方、これまでの計算では、時空中のある点から瞬間的に放射される多数の光子に対して時空中の多重散乱光子の振る舞いが記述されていたが、現実的な天体では、時間的に連続に光子が放出されることがある。これに対応するため、多重散乱光子の確率密度関数の解析解から連続光源から放射される多重散乱光子の集団的振る舞いの時空中での時間発展の計算も行い、ガンマ線で観測されている高エネルギー宇宙線の伝搬現象に適用する。今回の計算では、拡散近似を用いることなく、これらの現象の計算を行った。講演では、今回の計算で得られた天体中心から高エネルギー粒子が周囲に伝搬する過程の時間変化について紹介する。

bhmag2023_高橋労太.pdf

 LOC : 石原、中尾、吉野

SOC : 小出、孝森、斉田、南部、野田、中尾,石原、吉野、高橋