ブラックホール磁気圏研究会2022

アブストラクト/講演スライド

OCAMI Reports 2022, Vol 7        研究会集録を公開中!

Workshop on Black Hole Magnetospheres 2022 ここをクリック!

M. Takahashi, H. Ishihara, H. Yoshino, K. Nakao, S. Koide, Y. Nambu, H. Saida, Y. Takamori, S. Noda

doi: 10.24544/ocu.20220815-001

Date: August 18, 2022


ブラックホール磁気圏中の磁気音波の伝播


高橋真聡 愛知教育大学 


ブラックホール周りの磁化したプラズマトーラス/コロナ中での磁気音波の伝播について、磁気流体の波動方程式を幾何光学近似して考察する。磁化したプラズマの分布についてのモデル(Toy モデル)としては、Fishbone-Moncreef (1967) solution に大局的な磁場分布を重ね合わせたものを使用する。幾何光学近似により、Magnetoacostic metric を定義し、磁気音波についての射線と波面を計算した。回転する磁気流体においては、順方向に伝播する波は外側に伝播していき、逆方向に伝播する伝播は内向きに伝播することが示された。これらの波の伝播の振る舞いを波についての有効ポテンシャル を用いて議論する。

MT_bhmag2022.pdf

自転するブラックストリングまわりでのアルベン波伝播の1次元フォースフリー数値計算   クリック<講演スライド:パスワード付き>

小出眞路 (熊本大学)

自転するBanados-Teitelboim–Zanelliブラックストリングまわりの磁力線に沿って伝わるアルベン波のエネルギー輸送を調べるために1次元フォースフリー動磁気学数値シミュレーションを行なった。軸対称・定常な電磁場に摂動を考え、アルベン波に対応する摂動の線形方程式を導出した。アルベン波の線形方程式を用いた計算の結果、初期にエルゴ領域にあったアルベン波がBlandford-Znajek機構で定常的に磁気エネルギー流束が外向きになるような磁力線に沿って外側に伝わるにつれて、アルベン波のエネルギーは単調増加することを見出した。この状況は、エネルギーが保存していないようにみえる。この見かけ上のエネルギー保存の破れは、アルベン波によって励起される付加的な波の存在を示唆している。実際、アルベン波が励起する付加的な速い波を考慮すると、エネルギーの保存則は回復する。このアルベン波による速い波の励起は、アルベン波が運動量を持つことに起因する相対論的効果である。同様なアルベン波のエネルギーのエネルギー増大とアルベン波による速い波の励起が、自転するブラックホールまわりでも起こると期待される。

Off-equatorial propagation of Alfvén waves in a force-free magnetosphere of a Kerr black hole   クリック<講演スライド:パスワード付き>


野田宗佑 (都城高専) 


先行研究[1][2]によって, 回転するブラックホール周辺におけるAlfvén波は増幅散乱(Alfvénic superradiance)を引き起こすことが明らかとなった。本発表では[2]で議論された赤道面におけるAlfvén波の伝播の解析を拡張し, 赤道面から外れた場合のAlfvén波の解析方法とそのsuperradianceの可能性について議論する。

[1] S. Noda, Y. Nambu, T. Tsukamoto, and M. Takahashi, Phys. Rev. D.101, 023003

[2] S. Noda, Y. Nambu, M. Takahashi, and T. Tsukamoto, arXiv 2111.01149 [gr-qc], appear in Phys. Rev. D soon.


相対論的流体中での輻射輸送と光子多重散乱  クリック<講演スライド:パスワード付き>


高橋労太 (苫小牧高専)

ブラックホール天体中の降着円盤や噴出流、相対論的宇宙ジェット、巨大ブラックホール形成過程など様々な現象を研究する手段として、相対論的輻射輸送計算や輻射流体シミュレーションが用いられている。また、相対論的ボルツマン方程式を直接数値的に解く大規模数値シミュレーションも実行されている。ところが、現時点で相対論的流体中での光子多重散乱の効果を因果律を厳密に保った形でシミュレーションに取り入れる手法が確立していない。本研究では、相対論的流体中での光子多重散乱の集団的振る舞いを記述する確率密度関数の解析解が得られたので報告する。これまでの研究では、一部に数値積分が必要な準解析解が公表されていたが、今回、解くべき積分を全て解析的に解くことに成功した。これにより、途中に数値計算を含まない解析解を得ることができた。 得られた解は完全な解析解であるので、任意の数値精度で光子多重散乱の効果を記述することが可能となる。時空中で得られている解であるので完全に因果律を保存する。また、この解は、相対論的モンテカルロ・シミュレーションの結果を完全に再現するだけでなく、シミュレーションで高精度計算が困難な領域においても誤差ゼロの解を与える。これまで、光学的に薄い状況を正確に解く手法である一般相対論的光子ボルツマン・ ソルバーARTISI について発表したが、この解を一般相対論的光子ボルツマン・シミュレーションに組み込むことで、光学的に薄い領域だけでなく、光学的に厚い領域も含む任意の光学的厚みを持つ領域において厳密な光子 散乱の効果を取り入れることが可能となる。

測地線に沿った空間3次元一般相対論的輻射輸送コードの開発と適用  クリック<講演スライド:パスワード付き>

高橋幹弥 (筑波大学)


我々は、Takahashi & Umemura(2017)で開発されたARTISTコードをベースとして、光子数の保存を確実に保証する一般相対論的輻射輸送計算コード:CARTOONを開発した。CARTOONは、3次元空間において、時間依存する一般相対論的輻射輸送方程式を測地線に沿って直接解く。測地線に沿った計算を行うため、光の湾曲や重力赤方偏移といった一般相対論的な効果を全て取り入れて輻射輸送方程式を解くことや、少ない数値拡散によって光の波面の伝播を極めて正確に追跡することが可能である。

我々はCARTOONを用いてブラックホール時空を光の波面が伝播するテストを行った。その結果、散乱の有無によらず光子数の保存を保証しながら正確に波面の伝播を追跡できることを示した。さらに、時間変動する現実的な流体場のもとで、輻射場の時間変動と観測量の時間変動を無矛盾かつ同時に計算することも可能である。

本発表では、現在投稿準備中の論文に沿ってCARTOONを概観し、研究の進捗状況によってはその適用結果も示す。

一般相対論的輻射磁気流体力学シミュレーションで探る超臨界降着円盤のブラックホールスピン依存性  クリック<講演スライド:パスワード付き>

内海碧人 (筑波大学)

ブラックホール(BH)への超臨界降着は、超高光度X線源(ULX)や一部の狭輝線セイファート銀河のエネルギー源と考えられ、また、超巨大BHの形成過程においても重要な役割を担っていると考えられる。これまでの超臨界降着円盤の研究は、無回転BH周囲のものが主であり、BHの回転の効果は十分に調べられていない。降着円盤の理論によると、BHが回転すると円盤の内縁半径が変わるため、利用できる重力エネルギーの大きさが変わる。さらにBHの回転エネルギーは磁場を介して抽出されアウトフローへと渡される(Blandford-Znajek[BZ]機構)。これらの効果は超臨界降着円盤の構造や輻射強度、ジェットのパワーに影響を与えると考えられる。そこで、本研究ではBHのスピンパラメータa*を0.9(円盤とBHが順回転)から-0.9(円盤とBHが逆回転)まで変化させ、超臨界降着円盤の2.5次元一般相対論的輻射磁気流体計算を実施した。 その結果、BH近傍から解放されるJet領域のエネルギー変換効率は|a*|が大きくなるほど増加する傾向が得られた。さらに、|a*|の小さいモデルでは全変換効率の内、輻射成分が優勢で、|a*|の大きいモデルでは磁場成分が輻射成分を上回ることがわかった。これはBZ機構がBHの回転に強く依存する一方、輻射エネルギーの生成がBHの自転にあまり依存しないためである。また、噴出ガスを駆動している力を調査したところ、BHスピンによらず降着円盤表面付近では輻射力で加速され、円盤上空では輻射力と磁場による力で加速されていることがわかった。

Blandford-Znajekプロセスの計量へのバックリアクション  クリック<講演スライド:パスワード付き>


木村匡志 (立教大学

本講演ではBZプロセスの計量へのバックリアクションを議論する。まずSchwarzschildブラックホール周りの質量および角運動量降着に対する重力摂動の一般論を展開して、そのフォーマリズムをBZプロセスへ適用するという方法を用いる。BZプロセスのバックリアクションを考慮すると計量は時間依存することになるが、その時間依存性はKerrブラックホールのパラメータに手で時間依存性を持たせたものとして理解できることを我々は示した。また、ブラックホール熱力学についても議論を行う。

ブラックホール近傍のヌル電磁場

小嶌康史 (広島大学) 

回転するブラックホール近傍から外向きの電磁気的エネルギーを生みだす機構の探査が、本研究会の中心テーマであり、解析的、又は数値的などちらの手法でも複雑で困難な問題となっている。例外的な解析解(スプリットモノポール磁場での外向きの電磁気的エネルギーフラックスがある解)があるが、物理的な観点から受け入れられないとの考えもある。そのスプリットモノポール解では電流は電荷密度が光速度で運動している。その仮定を採用すれば、回転するブラックホールでも、容易に外向きの電磁気的エネルギーフラックスがある解(ヌル電磁場)が導ける。

その内容のreviewからはじめ、シミュレーション・現実で問題点等を議論する(してもらう)。

参考論文

Brennan, T., D.et al (2013) CQG, 30,195012. / Kojima,Y. and Kimura, Y. (2020) Universe, 7, 1.

BHkojima22Mar.pdf

銀河系中心ブラックホールの重力場による重力理論の検証  クリック<講演スライド:パスワード付き>


斉田浩見 (大同大学)     

銀河系中心の巨大ブラックホール候補天体 Sgr A* を周回する星の運動の測定を通して、重力理論の検証に迫りたい。その途中経過をまとめる。

静的球対称時空における近点移動  クリック<講演スライド:パスワード付き>

原田知広 (立教大学) 

現在進行している研究について講演する。

ブラックホール連星におけるX線放射の短時間変動  クリック<講演スライド:パスワード付き>

河村天陽 (東京大学

ブラックホール連星は、X線アウトバーストの期間、ソフト状態とハード状態に大別される複数のスペクトル状態をとることで知られる。熱的放射が卓越するソフト状態は標準円盤で一定の理解が得られる一方、非熱的放射が優勢となるハード状態は統一的な見解が得られていない。ハード状態の異なる観測的特徴として、ミリ秒から数100秒の時間スケールにわたる激しい光度変動がある。磁気回転不安定性により発生した質量降着率のゆらぎが、降着過程で内側に伝播するというPropagating fluctuations modelは、この時間変動を説明する有力な描像であるものの、定量的にモデル化し観測データを十分再現するといった段階には至っていない。本研究では、観測データのフィッティングへの利用を目的に、上述の描像を土台とした時間変動モデルの開発を進めてきた。Insight HXMT衛星によるブラックホール連星 MAXI J1820+070の観測データにモデルを適用した結果、2 keVから50 keVの広いエネルギー範囲にわたり、データをよく再現することに成功し、ハード状態の降着流を時間変動の観点から定量的に理解する足がかりを得た。本講演では、開発した時間変動モデルを説明し、データへの適用、そこから得られる降着流の特性について議論する。

ブラックホール近傍からの光の脱出確率  クリック<講演スライド:パスワード付き>

小笠原康太 (京都大学) 

Kerrブラックホール近傍にある光源から放たれた光が遠方まで脱出する確率を議論する.高速回転するブラックホールでは,地平面近傍から放たれた光の約30%は遠方まで脱出可能であり[1],光源の固有運動の効果によってはさらに高い脱出確率を示すとともに青方偏移された光が遠方に到達可能となる[2, 3].本講演ではこれらの結果を紹介するとともに,時間が許せば現在進行中の解析結果も紹介する.

[1] K. Ogasawara, T. Igata, T. Harada, and U. Miyamoto, Phys. Rev. D 101, 044023 (2020).

[2] T. Igata, K. Nakashi, and K. Ogasawara, Phys. Rev. D 101, 044044 (2020).

[3] T. Igata, K. Kohri and K. Ogasawara, Phys. Rev. D 103, 104028 (2021).

ヌルダスト降着におけるブラックホールシャドウとフォトンスフィアの解析  クリック<講演スライド:パスワード付き>


古賀泰敬 (名古屋大)


定常的なブラックホールでは、シャドウとフォトンスフィアが密接に関係していることが知られている。しかし一般にブラックホールは質量降着や重力崩壊など動的な過程にある。動的な時空におけるフォトンスフィアの一意的な定義はなく、そのような構造物とシャドウの関係も不明瞭である。本講演では、ヌルダストを降着するVaidya ブラックホールにおいて、シャドウに関係する光の軌道を詳細に解析し、フォトンスフィアに対応する構造との関係について議論する。

幾何学的に厚い移流優勢降着円盤における磁束輸送の理論研究  クリック<講演スライド:パスワード付き>


山本凌也 (大阪大学


ブラックホール周りの降着円盤を貫く大局的磁場は円盤風やジェットの駆動などに本質的に重要である。しかし円盤の大局的磁場分布の磁束輸送の機構は未解決課題として残っている。過去の研究では円盤内の磁場強度を鉛直方向に平均化した磁束輸送計算が行われており、幾何学的に薄い降着円盤では磁気拡散が効率的に働くことから磁束が円盤内側に集積しないことが指摘されている(Lubow et al. 1994a)。一方、円盤が厚いと拡散のタイムスケールが長くなるため、磁束を集めるためにはRIAFやslim円盤などの幾何学的に厚い円盤での磁束輸送を考える必要がある(Begelman & Armitage 2014)。我々は幾何学的に厚い円盤に対してポロイダル磁場の進化を追うために、公開コードAthena++(Stone et al. 2020)の枠組みを用いた高速な二次元球座標系磁束輸送コードを開発した。我々はRIAFのモデルとしてNarayan & Yi (1994)の自己相似解を、slim円盤のモデルとしてWatarai (2006)のslim円盤と標準円盤がおよそ光子補足半径で切り替わる解析解を用いた。また一般に降着円盤の表面では磁場による角運動量損失によって高速な降着流ができやすい一方で(e.g., Takasao et al. 2018)、slim円盤では特に輻射圧による外向きの流れも生じやすい(e.g., Kitaki et al. 2021)。そこで円盤表面の速度場の符号や大きさをパラメータにとりブラックホールとその近傍の磁場分布がどう影響を受けるかを調べた。その結果、slim円盤では強い表面降着流がある場合や降着率が非常に大きくslim円盤となる領域が大きくなる場合に効率的に磁場が集積されることが分かった。表面流のないRIAFではMADのような強く磁化した円盤になるほど十分に磁場が集積せず、ダイナモ効果などの磁場生成・維持機構の必要性が示唆された。

磁力線を伝播する波の閉じ込めとエネルギー増幅  クリック<講演スライド:パスワード付き>

伊形尚久 高エネルギー加速器研究機構) 

Blandford-Znajek機構は、電磁場によるブラックホールからのエネルギー引き抜き機構の一つである。この機構で本質的な役割を果たす磁力線に着目して、その上を伝播する波のエネルギーを暴走的に増幅する機構を考察する。フォースフリー電磁力学の特性から誘導される磁力線と南部-後藤ストリングの対応関係を利用して、磁力線の配位をストリングでモデル化することで、エルゴ圏と波の閉じ込め機構との関係を議論する。

Interferometry of black holes with Hawking radiation  クリック<講演スライド:パスワード付き>


南部保貞 (名古屋大学)  


量子論では,ブラックホールはプランク分布のHawking輻射を放出することが知られている.これは強重力と量子論が共に関与する重要な現象であり,その本質の理解は重力自身の量子論につながるものと考えられている.本講演では量子場であるHawking輻射を用いることで,Hawking輻射を用いて「見た」ブラックホールの像を求める方法について紹介する.アイデアは単純であり,電波観測等で用いられるvan Cittert-Zernikeの定理を用いて,波動としてのHawking輻射の空間相関関数(visibility)のフーリエ変換を実行することでHawking輻射の「光源」としてのブラックホール像を得ることが可能である.像構築に必要な道具立て及び得られた像の意味について解説を行う.

Ref: arXiv:2109.07044 (will appear in Phys. Rev. D)


対称性を利用したMaxwell方程式の解法について 

宝利 剛 (舞鶴高専)  

本講演では,時空の対称性を利用したtest Maxwell方程式の解法について紹介する.本講演前半では,曲がった時空上のtest Maxwell方程式の解を,時空の対称性を記述するKillingベクトルを利用して構成するWald解について紹介した後,その拡張について議論する.また,4 次元Kerr 時空上のMaxwell 方程式は,Teukolsky方程式としてスカラー型の方程式に帰着できることが知られており,その背後の構造をKerr 時空のもつCKY 対称性によって説明できることがBenn-Charlton-Kress によって示されている.本講演の後半では,CKY 対称性を利用した,Benn-Charlton-Kressの手法について紹介する.また,最近進展のあった,Lunin,Frolov-Krtous-Kubiznakの手法についても紹介する.

bhmag2022OCU_houri.pdf

一般相対論的高次ゲージ不変摂動論の定式化の現状2021


中村康二 (国立天文台) 

高次摂動への拡張を念頭においた、一般相対論的摂動論のゲージ不変な定式化の現状を報告する。2008年のブラックホール磁気圏研究会では、一般相対論的高次ゲージ不変摂動論の一般論とその宇宙論的摂動への応用をもとに、その展望として、ブラックホール時空の摂動論への適応可能性について、根拠のない議論をした。あれから14年、今年に入って、当時の一般論が、球対称ブラックホールの摂動論へ適応可能であること示した論文 [1-5] を発表した。本公演では、一般論のブラックホール摂動への適応の展望について議論する。 [1] K. Nakamura, Class. Quantum Grav. vol.38 (2021), 145010. [2] K. Nakamura, Letters in High Energy Physics vol.2021 (2021), 215. [3] K. Nakamura, arXiv:2110.13508v2 [gr-qc]. [4] K. Nakamura, arXiv:2110.13512v2 [gr-qc]. [5] K. Nakamura, arXiv:2110.13519v2 [gr-qc].

KoujiNakamuraBHMH20220310_Submitted.pdf

LOC : 石原、中尾、吉野

SOC : 小出、孝森、斉田、南部、野田、中尾,石原、吉野、高橋